きんもくせいとランドセル

琥珀 燦(こはく あき)

「きんもくせいとランドセル」



小学校の前に、大きなきんもくせいの木が植わっているおうちがあります。秋になって、毎日通学の途中で、ひな子はその花に見とれていつも立ち止まってしまいます。

「きれいな黄色でいっぱい!それに」

深呼吸すると、甘くて金色のにおいが胸の中にいっぱいになるみたいです。

「…とってもいいにおい…」

 昨日の雨風で、たくさんの黄色い小さい花びらが、アスファルトに敷き詰めるように落ちています。ひな子はこの金色の花々いっぱいの世界を少しだけ一人占めしたくなってしまいました。そこで、地面に落ちた花を、ひざまずいて集め始めました。

「この花をいっぱい、お気に入りのハンカチに包んで、可愛いレースのリボンで飾って、ステキな匂い袋を作ろう」

と、思ったのです。枝に咲いている花じゃなく、道に落ちている花を一握りくらいもらうなら、どろぼうにはならないと考えたのです。

 ところで、おうちの中のその木が見える窓は台所の窓で、おうちの奥さんが晩ごはんの用意をしていました。

今日もお庭のきんもくせいが、まぶしいほどの黄色で窓をいっぱいに染めています。

奥さんは野菜を切る手を止めて、きんもくせいいっぱいの窓を見ました。窓の中のけしきが、何だか少し動いたような気がしたから。

きんもくせいの金色と、その合間の葉っぱの緑の中に、赤い色がチラチラ動いています。

よく見ると、真っ赤なランドセルをしょって、黄色い帽子からおさげ髪をのぞかせた小さな女の子が、道路にかがんで昨日の雨に濡れアスファルトに広がった、きんもくせいの花を、いっしょうけんめい拾っているのです。

「まあ、あの子…」

奥さんは慌てて台所を出ていきました。

引き戸の玄関がガラガラと開く大きな音を聞いて、ひな子はびっくりして立ち上がりました。そのおうちの人らしい女の人が、飛び出してきます。ひな子は、いたずらしてるのかと思われて怒られるのかと思い、きんちょうしてしまいました。

「す、すみません、私…」

と頭を下げると、そのおうちの奥さんがエプロンのポケットから新聞紙とハサミを取り出して、

「そんな地面に落ちたのを拾わなくても」

と言いながら、きんもくせいの大き目の枝を一本ハサミでちょんと切って、新聞紙にくるんで

「はい、どうぞ」と

笑顔で手わたしてくれました。

ひな子はうわあとびっくりし、

「ありがとうございます」

と慌てて頭を下げました。ひな子の小さな手に一抱えほどの大きな枝を持って

「私、この花で匂い袋を作ろうと思って」

とふるえる声で言うと、

「そう。ステキな匂い袋を作ってね」

を奥さんはほほ笑んでくれました。

 ひな子は両手いっぱいの枝を抱えて、ランドセルをがちゃがちゃ鳴らしながら走って家に帰りました。

「まあ!どうしたの?そのきんもくせい」

とお母さんが驚きました。

「あのね、匂い袋を作ろうと思って、お花を拾ってたら、そのおうちの人が出てきて、枝を切ってくれたの!」

 ひな子は、お母さんに説明しながら、何だかうれしすぎて涙が出てきそうになりました。

「やさしい奥さんね。よかったわね」

お母さんはガラスの花びんを出してきて、きんもくせいの枝をかざってくれました。お部屋じゅうが甘いにおいでいっぱいになります。

「きれいだなあ、お花を取ってしまうのがもったいないなあ」

金色のかすみのようなきんもくせいをながめながら、ひな子は、あのおうちのやさしい奥さんを思い出しました。

「そうだ、あの奥さんにも匂い袋を作って持っていってあげよう!」

ひな子はあの奥さんがよろこんでくれそうな美しい柄のはぎれをお母さんと探そうと思いました。

-終-

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きんもくせいとランドセル 琥珀 燦(こはく あき) @kohaku3753

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