第4話 くじら雲に飛ぶ

くじいた足ではうまくいかない

くじ引きの参加賞のティッシュ

クジラのように大きな声で

苦情がきたら困るけど

ぐしゃぐしゃのトマト

苦笑するしかない

屈伸できない

くしで髪をとかす仕草が好き

九時から用事があるのよ



せまい部屋から抜け出した

車を運転する

シートベルトもしめるのに

窮屈に感じない

家よりずっといい

行くあてはない

そうはいってもガソリンが持つまで

そうはいっても帰ってこれるところまで


星空の下

晴れ時々曇り

くじらみたいな雲がある

煙突から出る煙が雲になると思っていた

それでも雲に乗りたいと思っていた

ハンドルを握って

子どもの頃やったように雲を追いかけた

しばらくするとあいつら

形を変えるんだ

乗れそうだったのにちぎれたりして


眠れないことが増えて

まだ九時だからちょっとドライブ

きっと走り疲れて眠れるだろう

仕事で疲れて帰ってきて

家の布団の中で

沈めずに

寝つけずに

あれやこれやと考えてしまって

布団が浮かぶ体を抑えてるようにも感じる

いつもこうすると眠れる

そんな方法が

ことごとくダメになった

こうなったらいっそ眠らない

自然と眠れるように

がんばらないことだ


寝ても夢は見ない

ユメクイはさぞがっかりするだろう

俺だって子どもの頃は

くじらの雲に乗ったり

ヒーローになったり

いろんな世界を旅したもんだ

そうか、もしかしたら

食い尽くされてしまったのか



苦情が来ない程度の声量で

歌を歌う

即興で歌詞を考えてメロディをつける

眠れないことを嘆く歌だ

つまりは今の俺の歌だ


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字句の海に沈む 新吉 @bottiti

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