選ばれなかった僕らの英雄未満

尾巻屋

選ばれなかった僕らの英雄未満


悲しみばっかりが目につく世界に生きて

僕らは脈絡もない出会いに期待する


命が次々と尽きてゆく世界で

僕らはありもしない永遠を謳う


白々しい嘘に疲れ、必要ともされない皮肉を吐いて

高層ビルの下吹いた風、懐かしい香りを嗅いだ気がして


鉄道に揺られる雑多の類

選ばれなかった普通の残り


なぁ許してくれるか なぁ忘れちまった

夢、希望、無垢の感情

今になって悔いる無音の感傷


それでもこれだけは離すものか

最後に残った 自分への歌


正義も善意も全部邪魔だ

結局は空虚なメロドラマ


ハリボテの壇上で踊らされて

陽気にさせられ使い潰されて


選ばれなかった僕らはいつだって除け者だ

本気の声もシュールで片付けられた


じゃあ代わりに何を歌えばいい?

そう言ったらそっぽを向きやがって


絵空事の禁じられたこの世界で

僕らの命はあまりにも軽いから

どうでもいいやなんて言われ捨てられた僕らだから


世界を捨てる権利があって然るべきだ


それでも今なおこの場所で祈っているのは

手遅れになってしまうのが怖いから


人知れず消えてしまうのが寂しいから


救いようのない世界だなんて歌っていて、


悲しい悲しいなんて咽び泣いていて、


それでも心のどこかでハッピーエンドを信じているから


嗚呼


そうだ 世界はくそったれだ

けれど 僕らは『ここ』の他居場所を知らない


世界を否定するのならば、君もまた君を見捨てた一人だ

ならば最後の最後、


「僕は僕が好きだ」と


「失敗も後悔も、

 いつだって選ばれずにいたのも、

 競争に負け続けたのも、

 挫けてしまったのだって、

 全てを憎んだのだって、

 それでもまだ終わりたくないと叫んだのだって、

                  ―全部僕だ」と


「だからこそ僕は僕を愛してやるしかない。

     つまり、この世界を愛してやるしかない」と


そう言ってやるのだ。

そう言えるのもまた、この世界でたった一人、僕だけなのだから。

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選ばれなかった僕らの英雄未満 尾巻屋 @ruthless_novel

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