第5話

 ボコボコだった。

 皮膚の全てが熱を持ち、腫れあがり傷だらけだ。

 唇と頬は貫通され、運河のようになった。血が流れる運河だ。

 顎の骨は少女とは思えないアッパーを喰らって折れた。

 舌で押すとぐらぐらする。

 

 肋骨は五本は折れているだろうし、指は全滅だ。

 左足の膝のお皿――


 信じられないことに、素手で毟られた……

 血まみれの膝皿軟骨は、それをやった栞が食った。


「あははは、お兄さんの血の味が素敵…… だから死ね!」


 といって、足首の関節をねじられた。

 今は、つま先が背中の方を向いている。


「あ、あ、あ、あ、あ、あ――」


 俺は、力なく涎をたらし、折れた手を振り回す。

 片足で立っているので、すぐにバランスを崩して倒れた。

 テーブルに頭を何度もぶつけているので、テーブルが赤く染まっている。


 引き千切られた片方の金玉から流れる血は俺の内股を旧ソ連領のようにしていた。

 真っ赤っかってことだ。

 それでも、アドレナリンの過剰分泌でどうにか今は血が止まっている。

 今更、コツカケをする気もない。



「あはははは―― 強いなぁ。最高だよぉぉ。あはは、死ねばいいのに、死んだらもっと気持ちいいのぉぉぉ!! 殺すぅぅ!!」


 己の股間を指で弄りながら、栞は喘ぎ、そして攻撃してくる。

 突きも蹴りもどれも、少女のものではなかった。

 空気が焦げ臭くなり、真空が発生しそうな一撃。


 今も、こめかみにロングフックが入った。

 俺は吹っ飛んでテレビに激突した。

 ラブホテルの中は滅茶苦茶だ。

 血みどろの地獄に近い場所になっている。


 セックスをするための場所――

 男女が快楽を貪る場所――


 ああ、そのような場所で俺はこの少女にいいようにぶちのめされている。

 股間に「ズキュン」とトキメキに似た何かが流れ込む。

 海綿体が震える。もう少しだった。

 もう少しで、俺のオチンチンはパンパンになるだろう。

 まだ、緩勃起の状態のオチンチンを俺は手で握った。

 

「あははは! ひとりで弄ってんじゃねーよ。殺す!」


 天へ向け飛翔する龍のような少女の蹴りが吹っ飛んで来る。

 容赦なく股間を狙ったものだった。


「がはぁぁぁ!!」


 違った。

 フラフラした俺の頭が間合いを間違えたのだ。

 栞の凄まじい蹴りは、俺の肛門を直撃していた。

 括約筋が引き千切られ、直腸が灼熱に焼かれる。

 前立腺にマグニチュード10レベルのエネルギーが流れ込む。


 ゲロを吐きそうになるが、その苦痛と痛みの分だけ、オチンチンが硬くなっていく。

 ああ、もうフル勃起目前ではないか――


 そう思った、俺の視界に真っ赤な何かが迫ってきた。

 巨大な…… 何か……


「あばぁぁ!!!」


 それは少女の指だった。

 恐ろしい速度で俺の眼球を狙った指だ。

 一本だけ突き出された指が眼球の上を滑り、眼膜を引き裂き、眼筋を両断した。

 片方の眼球は上を向いて動かなくなった。

 眼球を動かすための五本の筋の一本が完全に断ち切られていたからだ。

 もう少しで、指で脳を犯されるところだった。


(あ、あ、あ、あ、あ―― 勃ってる。俺は――)


「ああ、あ、あ、あ、お、オチンチンがぁぁぁ、勃った。勃った、勃ったんだぁ……」


 俺は震えた。全身を歓喜で震わせていた。

 オチンチンは天をついていた。

 片金となり、血まみれとなりながらも、フル勃起だった。


「勃ったのね――」


 すっと栞の狂気に満ちた殺気が消えた。

 目的が達成されたのだから。

 圧倒的な暴力、蹂躙の拳や蹴りは俺のための奉仕だったのから。

 そして、少しばかりの己の快楽のための……


「射精はどうするの?」


「しごくさ」


 俺はポンプアクションを開始した。

 痺れるような快感が体中に満ちてくる。


「いいのよ。セックスしても」


 栞は潤んだ瞳で俺を見つめた。


「やれやれ」俺は言った。


 俺はその要求を受け入れようとも、受け入れずともどちらでもよかった。

 射精による快感は実際のところ、脳内で発生し、射精の現場がどこであろうとも変わる物ではなかったからだ。

 そう、冷たいビールはどこで飲んでも冷たいビールであるという事実を示すかのように。


 俺はただ、素晴らしき快感を求める射精を求め、ひたすら手を動かすのだった。

 ただ、それだけが俺の望みであったのだから。



 ー完ー


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必然性のある暴力で蹂躙されないとオチンチンが勃ちません 中七七三/垢のついた夜食 @naka774

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