第4話

「素敵、素敵、素敵よ。ああ、骨の折れる音をもって聞かせてぇ、そして死ね」


 左手の小指に続いて薬指がへし折られた。

 一気に、なんの躊躇いもなく、ポキンと折れた。


 開放性骨折となり、小枝のような骨が皮膚を突き破る。

 びゅるびゅると、滑った鮮血があふれ出した。


「あああ、血がぁぁ、あははは。温かい血がぁぁ」


 栞は自分の手についた血を、血よりも真っ赤な舌で舐めた。

 はぁはぁと呼気が荒くなり、形の良い乳房が震えている。


 毛先ほど、ほんの少しだけ、俺の顎を押さえる力が弱くなった。


「しおりぃぃぃぃ!!」


 俺の肉体を破壊しながら、絶頂に上り詰めていく女めがけ、俺は左手を突き出す。

 シャッッと、擦過音を響かせながら、俺の左手が宙を走った。

 パンチではなかった。

 開放性骨折で、飛び出た骨の先をやじりとした突きだ。


 どのような格闘技の「理」の中にも無い俺の攻撃が掠る。

 栞の真っ白い肌に真紅のラインが引かれた。

 浅い傷。

 しかし、皮膚が裂け、血が流れ出したのは現実だった。

 ヌルヌルと、蕩けて吸い付きたくなるような鮮血が流れていく。

 頬を伝わり、俺の顔にポツンと落ちた。


「あはぁぁ、いいわ。いいよぉぉ。傷。傷をぉぉぉ、傷つけられたぁぁあ。ああああああ。死ね! 殺す!」


 目の焦点を完全に失い、口からは涎を垂らし、ガクガクと震えをながら、殺意をぶちまける。

 栞もまた、生粋の変態だった。


 変態同士の――

 歪んだ、傷つけあいながらでなければ、何も感じることのできない宿痾持った存在。

 もし、ネットというものが無ければ、出会うこともなかっただろう。

 そして、己の変態性、歪みを更に深く進行させ、暗黒の淵の中へ嵌っていったのだろう。


「あははは、狂いそうよぉぉ!! いいのぉぉ、最高ぉぉ」


 マウントを跳ね返そうとする俺を強制的に押さえこむ。

 栞の股間はぐずぐずに濡れていた。解けたアイスクリームのようだ。

 俺の腹の上は、強い匂いの栞の体液でべとべとだった。


 俺の股間にも何かが流れ込んでいた。

 勃ってはいない。勃ってはいないのだが、甘く痺れるような感覚はあった。


「お兄さんも、濡れてるよ。あははは、汁流してる。勃ってないのにぃ。殺すけど」


 にぃぃっと狂信者のような笑みを浮かべ栞が言った。

 俺の股間に手を伸ばしていたのだ。

 片方の金的を手の中に握りこんでいた。


「あははは、潰す? 潰したらどうなるのぉぉ。あははははは」


 硬い爪をシワに食い込ませ、栞は言った。

 背筋に鳥肌が立つ。

 次第に睾丸に圧力がかかる。


「大きいのね。ビワくらいある。チンポは勃たないのにね。あははは。死ね――」

「あ゛ぎゃやぁぁぁあああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! 嗚呼嗚呼嗚呼ああああああああああああああああ!!!」


 爪が食い込んだ、そして一気にだった。

 股間が灼熱に包まれる。痛みではない強烈な熱だ。

 内臓まで突きぬけ、焼かれるかのような熱。

 股間がら、真っ赤に焼けた鉄串を突っ込まれたかのような感覚。


 片方の金玉がもぎ取られていた。


(死ぬのか……)


 気が遠くなり、死神が股間を舐めている気がした。

 視界が白く霞み、全身が痺れる。


「あははは、金玉、金玉とっちゃったぁぁ、あははは、死ぬ? 死ぬの? 男はコレで死ぬ? 弱いねぇぇぇ♥」


 血塗れとなった俺の毟り取られた金玉を俺に見せ付ける栞。

 真っ赤に染まった俺の一部だった物。

 栞はそれを清めつかのように、舌で血を拭っていった。


 俺はある種の感動に包まれ、その光景を見ていた。

 股間からの血はとめどなく流れ続けていた。

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