第2話 普通という名の虚無

授業を無難に受け、友達と変化なく過ごし、今日もいつも通りに帰宅した。

「今帰った」

僕はただいまを言う代わりに今帰ったと言う。親父かって思うけど、ただいまと言うなんて落ち着かない。流儀か、そんな厳ついもんじゃない。


「おかえり」

母親の声がする。これは一般的な言葉だなと思うと笑える。

「。。。」

無言かよ。いつもの「今日なんかあった」とかは無いのかよ。

まぁ、いっか。でも、ちょっと顔出すか。


んっつ。まさか「どうしたんだよ。コスプレかよ」

親が髪を染めた。ブリーチだ。眼は灰色、まったく。。

「何やってんだよ。まじかよ。」

「何が」

「何がじゃねぇだろ」

「えっ。変」

「明らかに変だろ」

「そうかなぁ」

「そうかなぁ~じゃねぇだろ。保護者会とか、役員とか仕事とかどうするんだよ」

「いんじゃない。平気よきっと」

「きっと、まずいだろ。美容院行ってこい」

「え~。気に入ってるのに。似合うって言われたよ」

「客だからだよ。本気にすんなよ。頼むよ」

「そんな変かな。そこまでだと思わないけどなぁ~」

「しかも、カラコンいれんなよ。灰色のどこで売ってんだよ。いつ買ったんだよ」

「一度やった見たかったんだよね」

「なに、現実逃避。もう十分だろ」


「私ね、今まで人の笑顔を見ることが楽しくて、誰かのために時間を使ってきた。でも、それって報われること少ないんだよね。最近は、なんでもアッサリすっきり表面上の付き合いがほとんどで、その場その時、役員は1年がそつなく過ぎれば良いって感じで。なんだか心が枯渇してきちゃって。干からびるぅ~って感じだから。滅入ってたんだ。もう、人のために時間を使う余裕も無くなってきたしね。自分のために時間を使うことにしたの。やりたいこととか、挑戦したいこととか、やってみようかなと思って。それに、私、結構色んなことで来たんだって気が付いたの」

「分かったよ。だけどさ。いい大人なんだから。仕事もあるだろ。世間体とか。ちょっと気持ちに変化つけすぎじゃね」

突飛だから、油断できないんだよな。とにかく抑えなきゃいけないな。

「ん~。やっぱり普通が良いのか」

「そうそう。普通が一番だよ」

良かった。案外、あっさりと納得したな。もっと、時間がかかるかと思ったけど。。

「ねぇ。普通って何を基に普通っていうの。普通って誰が決めたの。そいつ、何様って感じだよ」

どっかで聞いたな。。あっ、学校だ。えっ、あれって母さんの声?明らかに違うと思ったんだけどな。

まぁいっか、荷物置いてシャワーでも浴びるか。

たいして、中身が無いリュックを床に置き、M缶を飲む。炭酸強。ベットで横になりスマホを流す、こいつらマジ面白いバカでいいやつらだ。

 階下に降りると、いつもの姿の母親がいた。

『戻したけど。これがお好きですか』

嫌味かよ。

『はい。嫌味ですがなにか』

めんどくせぇな。俺はシャワーを浴びに来たんだ。


イライラしながら、服を乱暴に洗濯機に入れ、シャワーを浴びる。水圧が強いのが俺の好みだ。

『節約するんだから。もっと水圧下げてよ』

風呂場まで言いにくるなよ。ほっといてくれ。

『あ~。水勿体ない』

うるせぇ!弱めればいいんだを弱めれば。もう来るな。


まったく、親というものは、なんて厄介なんだ。

「あ″~」

言葉にならない。タオルで頭をかくように殴り拭きし、体を拭きながら、ふと思った。

母親の足音したか。姿見えたか。声聞こえたか。。。

いや、気のせい気のせい。いつも通り何でもない日常だ。そう自分で唱えた。

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空の間に 荷風 玉響 @tamayura_kafu

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