空の間に

荷風 玉響

第1話 はじまりに合図はない

空から雫が降ってくる。

右の頬に、左の肩に。空を見上げる。

僕めがけて落ちてくる連なるように。早く、激しく。

時はこれほど急ぐものか、それとも私の時間軸が遅いのか。


僕にも友と呼ばれる人達はいて、僕も恐らく友と呼ばれているのだろう。


でも、僕の疑問を投げかけても、この感覚を理解してくれる人は居ないのだろう。


ゲシュタルト崩壊。原子レベルの粒が全ての構成を保っている。

誰も気に留めない毎日をせわしない現実に乗せ、乳児から大人まで自分の存在をアピールしてくる。楽しいという理由をつけて。


 今や好きだから楽しいからという理由であれば、何でも通る時代だ。好きや楽しいは感性が作用するのを知っているのだろうか。


感性はその人の文化であり芸術だ。普通という表現で押さえつけるには稚拙過ぎるのだが、確執、環境、身の周りに起こる順位付けで、普通が決まっていく毎日を、他人事のように感じられるようになった。くだらない。


 僕の過去も僕の現在も僕の未来も、誰に順位付けされるものでもなく自分だけのものだ。などと強い衝動に駆られて空を見上げた。

 僕を理解してくれる人は、存在しているのだろうか。


誰かが僕の肩を動かす。よろけるように前に押された。右左と駆けるように進み、クラスメートの背中に頭がかすめた。


「よっ。おはよう。」

「なんだよ。お前か。今日は1限から片平かよ。おもてぇ~な。」

「前場なら、まだいけるよな。」


そう、また今日がはじまる。


少し下向き加減で笑い合いながら、校舎から突き出た軒下へと駆けこんだ。


もうこれで、濡れずに済むと安堵しながらふと、顔を上げて周りを見た。

雑音のような弾んだ音が聞こえるものの、誰も互いに目線を合わせていない。。

画面を見ながら、前を向きながら、下を向きながら会話は続いていく。

まぁ、こんなもんさ。目を見ながら話す方がどうかしてると、明らかに自分を訝しげに感じながらも、笑い声と共に流れていく言葉が僕をかすめ通り過ぎていった。


そう、これが普通さ。いんじゃね。吐くように頭でつぶやいた。


『普通って何よ。何を基にして普通っていうの。あんた何様』

「はっつ。お前こそ何様だよ。えらそうに」

後ろを振り向いたが声の主はいないようだ。

「なに。なんか言った。」

彦ぴょんが隣から聞いてきた。彦ぴょんはいつも優しいけど、声が頭上を通り過ぎていくから、通り過ぎる前に聞き取らないといけない。聴覚のスポーツのようなものだ。


「いや、べつに。」

「なんだよ。」

どうでもいいだろ。。彦ぴょんの苦手なところ。

「ん。あー、誰かに話しかけられたかと思ったけど、気のせいだった。。」

「へぇ~。なんも聞こえなかったよ~ん」

あぁー。脳みそがねじれる。なんで語尾をのばすんだ。早く離れたい。

今は、耐えられそうにない。こんな時は、これが一番・・そう遮断だ。


中学の時、母に教わった。。。いや、感じた。。。

『遮断すれば。閉じればいいんだよ。なんでも自己責任の取捨選択の時代だから』

声に出してないけど、確実に母から届いたものだった。


母は、こんなことをたまにする。でもさっきのは。。。


静かでいいでも、つまんないか。少しボリュームあげて、高音下げるか。

雑踏がいい感じに聞こえる。いいねぇ~。自己満足だ。


彦ぴょんが、僕の顔を覗いてきた。おそらく、にやけたんだと思う。

「ほっとけ。」とにやついてみた。

周りは納得したようだ。何て言われてるか、誤解されてるかなんてどうでもいい。

今のこの感じが心地いい。


片平が入ってきた。僕の学校はHR何て言うウザイものは朝から無い。最高だ。

さて、そろそろ。開放するか。。

うるせぇ!

雑音の渦中に戻った。

『笑える』

またあの声がした。

だから、お前何様だよ。勝手に入ってくんな。

『は~い』

意外と素直だったんだ。でも彦ぴょんに近いやつか。苦手だ。


帰ったら、親に聞いてみるか。でも、どうやって。

まぁ、今は考えるのはよそう。


片平が静かにしろと教壇を叩いた。

そんなんで、静かになるわけねぇだろ。わかってねぇな。

まぁ、別にいいけど。


授業が始まっていった。








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