第4話
結局、あの美人のお姉さんは、この部屋を訪れる事はなかった。
だが代わりに、厳つい感じの兵がやってきた。
うーん・・・俺、そっちの趣味とか無いんだけど。
あれか?言葉も通じない奴に、タダ飯食わせてるんだ、お前には衛兵達のオモチャになってもらうぜ・・ってやつか?
・・・俺のお尻のピンチ?
何となく無意識に肛門がキュッとなっちゃう。
その兵は、部屋に入るなり、俺の前に向かいあって座った。
そして自分を指さし「バルド」と言うと、今度は俺を指さした。
あっ、そうか。自己紹介か。
目の前のオッサンはバルドって名前なのか。
で、俺の名前を教えろと。
名前か~
本名は〈鈴木太一〉だけど、折角異世界に来たんなら、カッコいい名前を名乗りたいな。
何がいいかな・・・
そうだ、〈キリト〉なんてどうだ?
おお!何かスキルとか無くても、異世界で無双出来そうじゃね?
しかも、超絶可愛い奥さんとか出来そうじゃね?
おお!いいんじゃないか?・・・
でも俺の中で、何かが警鐘を鳴らす。
その名前はマズイと。
じゃあ何にしようかな・・
ケンシロウ?ゴクウ?
ルフィなんてどうだろう?
異世界王に、俺はなる!!
・・・・〈タイチ〉
タイチ。そう言うとバルドのオッサンが頷く。
やっぱ親からもらった名前は大事にしないとね
その後、バルドのオッサンは、近くの物の名前を言っていく。
なるほど。言葉が話せないなら、覚えて貰おう作戦か。
それから俺は、色々な単語を覚えていく。
バルドのオッサンが居なくなった後も、覚えた言葉を繰り返す。
メモ帳なんて無いから、繰り返す事で無理やり覚えるしかない。
見張りの兵にしてみたら、朝から晩まで、同じ言葉をブツブツ言ってる、不気味な奴だろうけど、こっちは必死だ。
他にやることもなかった事もあり、半月位で単語とジェスチャーで会話が出来るようになり、2ヶ月もすれば、片言で会話が出来るようになっていた。
その頃になると、バルドのオッサン以外ににも、色々な奴が部屋に来ては、俺に言葉を教えて満足そうにして帰っていく。
あー、あれだ。
ペットの九官鳥に言葉を覚えさせるのが楽しいとか、そんな感じなんだろうな。
おかげで3ヶ月もすれば、日常会話が出来るようになっていた。
そして俺は、国王に呼ばれていた。
「会話が出来るようになったそうだな。」
「はい。まだカタコトですが。」
「では改めて。俺はこの国、オルガノ王国の国王、〈ミカエル〉だ!」
?ミカエルって言った?
天使だ。この国の国王は天使だ。
殿様の格好した大天使。
後で知ったんだが、第一王子の名前は〈カサエル〉だそうだ。
大丈夫か?オルガンの国。
「実はこの国は今、隣国と小競り合いを起こしていてな・・・
人手が足りていない状況なんだ。
是非、その方の力を借りたいのだが。」
用は、人手が足りないから、兵隊として戦争に参加しろと。
その為に、わざわざ異世界人の俺に言葉を覚えさせた・・・と。
戦争か~ 平和の象徴・日本から来た、戦争を知らない子供たちの俺からすれば、断固お断りしたいところだけど、そういう訳にはいかないだろうな。
「分かりました。頑張ります。」
「そうか。期待しているぞ!」
ニートから兵隊にジョブチェンジした事で、晴れて牢屋から寄宿舎に移動する事になった。
剣や、簡単な兵法のなどの訓練漬けの日々を過ごしていくうちに、すっかりこの世界での会話には困らなくなった。
込み入った会話が出来るようになって分かった事は、隣国〈ザックス〉王国は、大陸制覇を目論む結構イケイケな国で、内政や国民の生活よりも領地拡大を優先する、かなり危ない国だ。
2.3年ほど前にも、国民の成人男子を強制徴兵し、隣国〈ブルード〉に攻めたが、急造兵隊ばかりの軍は敗戦を重ね、ブルード侵略を断念。軍を引き下げ、ザックス―ブルード間の街道を封鎖。ダンマリを決め込んでいる。
で、今度は、国が豊かなオルガノ王国にちょっかいを出してきた。
ホント、何やってんだよ、セックス王国・・・間違えたザックス王国
それと、どうやら俺には異世界ならではのチート能力とかは全く無いみたいで、剣もまともに使えない・・と、周囲に馬鹿にされている。
「どうしたタイチ。異世界人って怖いイメージあったけど、子供並みだな。」
そう言って稽古の相手をしてくれているのは、ギャッツ君〔イケメン〕だ。
ギャッツ君は、色々と気を使ってくれて、気さくなとてもいい奴なんだけど、悔しいくらいイケメンだから、シネバイイノニ。
くそ!
異世界なんて大嫌いだーーー!
異世界なんて大嫌いだ!! なめこ星人 @suzukiseki0630
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