第3話
あのあとすぐに、見張りらしき兵が部屋にやってきて、軽く睨まれた後、奥の扉を開けた。
どうやら付いて来いという事っぽい。
扉の向こうには小さな部屋があり、真ん中に穴が開いていた。
兵はその穴を跨ぎ、トイレの仕草をする。
なるほど。この部屋はトイレなのか。
しかも便器のない和式。いわゆる〈ボットン便所〉。
その後、穴の縁にある水色の石に手をかざすと、石から水が出てきた。
おお!!ひょっとして魔石じゃね?
何だよー、ちゃんとファンタジー要素もあるじゃん。
しかも、トイレから出た水は、螺旋状に流れていく。
良く見ると、トイレには螺旋状に溝が掘ってある。
もう一度、石に触れると、水は止まった。
ボットン便所なのに水洗。
流石異世界、突っ込み所満載だぜ。
トイレを出た後、ちょっと窪んだスペースに行き、同じように水色の石に触れると、水が出てきた。
今度は手でその水を掬って飲んで見せた。
もう一度触れると止まる。
なるほど、ここは水飲み場か。
一通り説明が終わったのか、兵は外に出ていった。
異世界に転生していきなり牢屋に入れられたが、牢獄生活は意外と快適だった。
ご飯はちゃんと運んでくれるし、着替えもタオルも用意してくれる。
だが、テレビもラジオも、もちろんネットなんてない。
そう、娯楽がない。
吉幾三が東京に行きたくなる気持ちが、身に染みて良く分かる。
飯食ってひたすらダラダラする毎日。
まさにニートだ。
そんなニートの元に来客があった。
神官の格好をした老人。
手には何やら分厚い本を持っている。
老人は部屋に入るなり、手に持っていた本を開くと、何やら言い出した。
『§§◎&¢¢#%』
?何?いきなり?
老人は、俺の反応が無い事を確認すると、ページをめくる。
『◀◢◆◐▶■』
え?何?呪いの呪文か何かかな?
構わず続ける老人。
『ピーカプブゴー・ガーザパギーぺー』
???
それから何度も繰り返し続けられ俺の反応を確認する。
なるほど、古文書みたいなのから、俺の話せる言葉を探しているのかな?
『コムサムタクルヤラスタ』
おっ?今のちょっと日本語っぽいんじゃね?
でも老人は、そこで本を閉じ、近くに居た兵に首を振った
え?ちょっ。これで終わり?まだ本の半分くらいだったよね?どうしてそこで諦めるんだ?諦めるな!
って、元テニスプレイヤーに怒られちゃうよ?
諦めたらそこで試合終了だよ?
俺の無言の抗議虚しく、老人は去って行った。
??一体何だったんだろう??
それから数日後、今度は魔法使いみたいな格好した、若い女の人がやってきた。
おお!かなりの美人さんじゃないか
美人さんは俺の前に来ると、良く占いとかで見かける、水晶玉みたいな石を、俺の額にかざした。
すると、その水晶は何か白いモヤがかかったみたいになった。
すると周りの人達から、驚きの声が漏れる。
うん、言葉はわかんないけど、何となく解るよ。
「やはりこの方は勇者様です」
「やはりか」
「今晩の夜伽は是非私に・・」
・・・とは言ってないんだろうな。
きっと
「こいつ異世界人かもしれません」
「マジか、だから言葉通じないのか」
って言ってるんだろうな。
困ったって顔してるもんな。
あ、お姉さん帰っちゃうの?
今晩待ってるよ・・・
くそ!
異世界なんて大嫌いだーーー
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