最後の夢

ある☆ふぁるど

最後の夢

 妖精たちは、長い間、海の底で暮らしていた。地上から追い払われてしまった彼等には、もう他に行く所がなかったのだ。仲間たちもずいぶん少なくなってしまった。

 かつて、森があり、清水が流れ、草も花も生き生きと輝いていたころ、彼らは鳥と獣と虫たちの仲間だった。共に暮らし、共に生き、語り合い、笑いさざめき・・・だが、今は?

「何故?」

 妖精たちは、夜ごと水面に浮かび上がり、星たちの小さな光に照らし出された、暗く、虚ろな大地を見つめる。波のまにまに、悲しい瞳で・・・。

 あれは、彼らの見捨ててきた大地だ。かつて住みかであった清らかな水も、緑に萌える木々も、風に揺れる草も、美しい花も、今はもうない。

 誰もいない。死の灰で汚れた大地。

「再び、帰ることがあるのだろうか?」

 妖精たちは問う。

「その前に我々は消滅するだろう」

 海でさえ、もはや安息の地ではない。水面を揺らす風は冷たい。濁った色の雨が降ってきた。妖精たちは水の底へ帰ってくる。魚はいない。そこに生きるものの影はない。

 やがて、水も消え、乾いた土が現れるだろう。しかし、それもいつか消えて、ここは死の星となる。夢を見るものがいなくなれば、我々もまた消えるしかない。

 今、生きる妖精たちは、死にかけた地球が見ている最後の夢なのだから・・・。  おしまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最後の夢 ある☆ふぁるど @ryuetto23

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ