芸術、という言葉を安易に使うことは避けたいと思いながら、けれども小説はその芸術性を放棄すべきではないという想いをわたし自身が思い起こしました。だって、映画はそれを放棄してない。映画は人生である、という短文が今でも成立するように、小説は人生である、という一文を取り戻したい。そう感じさせていただきました。切なく苦しく、そして美しい短編です。お勧めいたします。
私の世代は、個性的になれという圧力をかけられた世代である。そんな中で、私は何者にもなれない自分の怠惰に悔しい思いをしながら大学を卒業するまで本を読んでいた。そんな悶々とした頃を思い出す、ヒリヒリした短篇。あの頃を思い出しました。
この小説は一種の青春小説だけれど、甘酸っぱくはない。苦い苦い青春小説だ。そんな難しい主題を筆者は構成力によって短編におさめている。 青春時代が苦しかった人にこそ読んでほしい小説です。