海と空、宇宙と命の話

槙田 華

すげぇ・・・すご過ぎだよ!!!

こんにちは。初めまして。槙田華です。今回は初めて映画評論をしてみたいと思います。どうぞお手柔らかにお願い致します。

では先ずこの映画のについての概要を素人ながらご説明します。


映画の原作となった同名の漫画「海獣の子供」です。

この原作を手掛けたのは、漫画界の中でも特に多くの人々から長年支持を受けている”五十嵐大介”さん。この作品の他にも広く知られている作品を上げれば、「魔女」や実写映画化された「リトルフォレスト」などがあります。ファンタジー色が強い作品が多い五十嵐さんだが、その特徴として多く取り上げられるのはその“絵”です。線を自在に操り絵画的な鮮やかな絵を漫画と言う白黒の世界の中で描く事の出来る漫画さんであり、デビュー当初からその絵のうまさには定評のあった作家さんです。


そしてその原作をアニメ映画として仕立て上げたのが”スタジオ4℃”様です。このスタジオは以前にも「鉄コン筋クリート」や「マインド・ゲーム」などの素晴らしい作品を世に出したスタジオとして知られています。


その製作を仕切る監督を“渡辺歩”様。そして作画監督からキャラクターデザイン、演出を“小西賢一“様が務められました。

このお二人はアニメ界で言わずと知れた方々なのですが、代表的な所を上げますと、渡辺歩さんは先ずあの“ドラえもん”の製作に開始当初から携わり、劇場版においても多くの作品で監督を務められました。小西賢一さんはジブリスタジオに所属し主に“高畑勲監督”の作品の製作に携わり、「かぐや姫の物語」において作画監督を務められました。そしてこのお二人がともに製作した作品が、大ヒットしました「のび太の恐竜2006」です。この二人が組んで間違いは起きる筈が有りませんね。


そしてこの映画の音楽を作曲されたのは、皆さんご存じの日本を代表する作曲家、“久石譲様“でございます。今迄数多くの名曲を作って来られた言わずもがなのお人です。

そんな方たちがなんと6年という期間を掛けて作られたこの作品に切り込んでいきたいと思います。


長くなってしまいましたが、此処からが映画本編の話となります。ネタバレも含みますのでご注意を。先ず本編ですが、要約すれば主人公の女子中学生が二人の不思議な少年に出会い、海と言う舞台で命の誕生を目の当たりにした事を経て、自己肯定する事で一歩前に前進すると言う一人の少女のひと夏に起こったファンタジー色の強い成長物語、と言う感じです。物凄くざっくり言うとこんな感じですが、敢えて此処はざっくりで良いと思います。その理由として、この映画において重要なのはストーリーやキャラクターの発するセリフからのメッセージなどでは無く(セリフから感じられるメッセージも勿論重視すべきですが)映像を通して観客に一つの体験をさせる事それ自体に意味を見出している作品だと思われるからです。この映画は登場人物の心情変化で観客の心情をシンクロさせて何かを訴えると言う手法はとらずに、あえてセリフを抽象的にしたり具体的な説明を省く事で見る人の中に先入観や固定観念を植え付けさせずに映像その物においてその印象を決定付けることに撤していました。そう思わせる程に映像のクオリティー、美しさに引き込まれました。では先ずその映像面にフォーカスしてお話しします。


冒頭でも触れました五十嵐先生の独特なタッチの絵はアニメで動かす事においては非常に困難極まりないと思われていました。しかしそんな考えが吹き飛ぶほどに見事に五十嵐先生のあの美しい絵が鮮やかに動き、劇場に居た人間を魅了していました。

この映画の八割のシーンで登場している物が有ります。それはズバリ“水”です。水の表現は多くのアニメーター達が挑み続ける形無い物を描く事の境地です。その水の表現がこの上なく美しく描かれています。海の描写は勿論、雨の中を走る主人公の顔に這う雨粒においても息を飲むほどの美しさ。本当に唯々圧倒される映像が続いて一回で見るには私の胃袋には収まらない程の物でした。勿論水だけでは無く、他の部分においても素晴らしい描写が数多く見られました。途中主人公が正面を向いて此方に走ってくる場面が有るのですが、アニメにおいてこんなシーンは数える程しかないでしょう。とても難しいからです。しかも今作では全身を映して走っているシーンが十秒ほど描写されていました。真に開いた口が塞がらない、そんなシーンでした。

そしてこの映画の肝ともいえる場面ともいえる“海の祭り”について。この場面を見て多くの方が脳裏に浮かべたであろう、映画界の巨匠である“スタンリーキューブリック”監督の手掛けた「2001年宇宙の旅」というSF映画のワンシーンである、スターゲイズのシーン。一切の説明なく唯々圧倒される映像を観客に滝行のように浴びさせるあのシーン。真になんの説明も無く祭りのシーンは始まり、終わりました。一体何が起こったのか、原作を既読している方を除けばなんとなくしか観客は理解できません。恐らくあのシーンは何が起こっているかが問題では無く、あの映像を見て観客が何を感じるか、何を思ったか。それ自体が主題なのかと思われます。言語化する事が不可能なシーンを作る事が目的だったのだと私は解釈しました。この映画の主題でもある「本当に大事な約束は言葉では交わさない」にも通じる物だと思われます。


映像と同時に驚かされたのは、音楽でした。ジブリ作品では徹底的とも取れる程場面の雰囲気に合わせて曲調を自在に操っていた久石さんが、今回の作品では基本的に“ミニマル”に撤していたからです。ミニマルとは音楽用語で繰り返しを意味します。同じ音やリズムを楽器や曲調を変える事で一つの曲にする手法とも言われています。分かり易い例は「ボレロ」などです。美しい調べが劇場を出た後も耳に深く残っていました。是非劇場の5.1チャンネルで体感してください。


そしてこの映画の最大のメッセージは、言葉に出来る事はとても少なく、大事な事は言葉に出来ないという事だと思います。宇宙の90%は暗黒物質で構成されているという理論がこの物語内で登場します。つまり我々が認識している世界はほんの10%ということ。こういう言い方をすると、何だか難しく聞こえますが、決して難しい事を訴えたい映画では無いと思います。しかし言葉では表現できない大事な事を絵や音で表現する事を試みた作品であると思われます。つまり、見て感じた事が全てであり、言語化出来る事はその一部ですらないという事です。


此処まで語って来た私がこんな事言うのは非常に矛盾していると重々承知していますが、とにかく見てもらう事で初めて何かを得られると思われます。ぜひ劇場の大画面で、サウンドであの世界を感じてほしいと思います。長々とお付き合いありがとうございました。

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海と空、宇宙と命の話 槙田 華 @kannoseika

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