第43話 最後の別れ
うつ病
精神的ストレスや、身体的ストレスが重なることなど、様々な理由から脳の機能障害が起きている状態。脳が上手く働いてくれないので、ものの見方が否定的になり自分がダメな人間だと感じてしまう病気のことを指す。
脳の病気・・・。
灯はそう思った。
身体が動かないのも、食欲が無いのも、夜眠ることが出来ないのも総て脳の働きが悪くなっているからか。
身体が重い。だるくて動けない・・・。
何も考えられない。
よく人は『なまけ病だ』という病気だが、本当に体が動かなかった。
灯は一人、眠れなかったが考えていた。
すると・・・。
『ピンポーン』
ベルが鳴った。
気が付くとAM4:00
健一が来た。
灯は、気持ちが落ちていた。
もう、彼とセックスしたくない。
灯が、放っておくと・・・
またもやベルが鳴った。
灯は、ハアハア言いながら起き上がり、やっとの思いでドアを開けた。
やはり健一が立っていた。
「どうしたの?」
「とにかく・・・中に入って・・・。」
灯が即すので、健一はとりあえず中に入った。
すると、灯が玄関で倒れた。
「どうした!?熱でもあるのか?」
健一が抱き起す。
「ち・・・違う。悪いけど肩貸してくれるかな?」
健一は、灯を抱きかかえ、部屋に行った。
部屋に入ると、部屋が雑然としており、汚れ物が目立った。
灯の部屋はいつも綺麗になっていたのに、これはどうしたことだ。
健一はそのような部屋の状態を聞かず、灯を寝室まで連れて行った。
灯は、ふう・・・と一呼吸突くと、寝ながら健一に話をし始めた。
「健一。此処に来て・・・。」
健一は、灯の床まで来て座った。
「私、仕事・・・辞めるかもしれない・・・。」
「えっ!?上手く行ってたじゃん!?」
健一が驚く。
「私ね・・・うつ病になっちゃった。もう辛い。」
灯が泣き始める。
「うつ病?」
「精神の病気なんだって。気持ちが落ちちゃう脳の病気なんだって。私これからどうしたら・・・。」
健一は、思った。
そんな事俺に言われても・・・。
俺はただ、セックスをしに来たんだけど・・・。
灯はかなり落ちていた。
あの頃の灯は、何処へ行ってしまったんだろう。
俺だけを真っ直ぐに見つめていた灯。
俺は、そんな灯が好きだった。
健一は出直そうと、立ち上がろうとした。
すると、灯が言った。
「健一。もう・・・別れよう・・・私達。」
「えっ!?」
何で!?
「何でだよ!?」
せっかく、灯に本気になったのに、なんで彼女はこんなことを言うんだ!?
灯は思っていた。
もう健一を見るのが辛かったのだ。
何で急にこんな気持ちになったのか分からない。
病気のせいか、私が健一に飽きたのか。
それは分からない。
唯一つ分かることは、私は昔みたいに健一のことが好きではない、ということだけはわかる。
灯は一言言った。
「私も、こんな病気になっちゃったし・・・もう苦しいんだ。あなたと付き合っていると・・・。」
「そうか・・・。」
健一と灯は暫く下を向いて俯いていた。
彼は思った。
俺は灯のことは好きだけど、病気の灯をしょって行くほど優しい男ではない・・・。
「わかった・・・。」
健一は立ち上がった。
「本当にいいんだな・・・。」
「うん。」
灯がうなずいた。
健一は灯の方を見ず、玄関の方まで歩いて行ったが、立ち止まると・・・また灯が寝ている寝室に来て、彼女を思いっきり抱き締めた。
そして泣きながら言った。
「お前が、愛人になりたいって言ったんじゃないか!おれを巻き込んどいて、病気になったから別れたい?虫が良すぎるよ・・・。」
健一はあまのじゃくだった。
本当のことが言えなかった。
灯!好きだ!本気なんだ!お前と一緒にいたい!
それが健一の本音だった。
健一は灯に最後のキスをした。
深い深い、とろけるようなキスだった。
灯は涙を流しながら、それを受け止めた。
これが、灯と健一の最後の別れになった。
もし、健一が灯に自分の気持ちを打ち明けていたら
2人はどうなっていたのだろう・・・。
しかし、10年という歳月を灯と健一は
愛人というくくりで付き合ってきた。
だから、健一が灯を丸ごと受け止めない限り
もはや二人を恋人にする意味は
何処にもなかったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます