第40話 授賞式

季節は廻り

東京は12月を迎えていた。

世間は、寒波襲来で、厚いコートとマフラーを付けていた。

灯が、いつも通り仕事をしていると、

増沢から呼び出しを受けた。

何だろう?

私、何かしたかしら?

灯が応接室に行くと、煙草組の7人も呼ばれていた。

「灯!」

松浦恵美が声をかける。

「凄いよ。私達、成績優秀者ということで、特別に表彰されるんだって!ボーナスもつくみたいだよ!」

「本当!?」

灯は、びっくりした。

「それで、1番の成績優秀者は灯!あなたよ!」

えっ!?

嘘でしょう!?

灯は驚いた。私が1番の成績優秀者!

この、会社のトップ!

灯は夢を見ているみたいだった。

まるで・・・時がシオンにいたときみたいに感じられた。

嬉しかった。

「恵美ちゃん。私・・・。」

灯は泣いてしまった。

最近、ちょっとのことで泣いてしまう。

どうしたんだろう・・・。

そんな灯を、煙草組のリーダー茅野が話しかけた。

「俺とは0.5差だったんだけどね。でも、君が312.5。俺が312だから、君の方がトップってことだよ。おめでとう!」

この数は、成約した数を指す。

茅野は、灯に手を差し出した。

灯はそれに答える様に握手をする。

あまり喋らない茅野が、灯を認めた瞬間であった。

「授賞式は、クリスマス・イブの24日に行います。この日は遅刻してこない様に。社長が来ますよ。」

7人が、はい。と声を出した。

煙草組全員が、成績優秀者なんて・・・。

奇跡にも近いこの出来事に、灯は只々驚いていた。

入った頃は、社内一の落ちこぼれだったのに・・・。

しかも私が一番の成績優秀者。

灯は、夢を見ていると思った。


そして、クリスマスイブ

表彰式の日がやってきた。

「最優秀成績優秀者。内田 灯!」

「はい。」

皆が拍手する中、灯は症状と盾を受け取った。

灯は、社長に向かってお辞儀をした。

多くの拍手が灯に向かって、注がれた。

その中には、正もいた。

灯は、人生で一番絶頂の時にあった。


それから、煙草組の7人と灯が社長と共に記念撮影をする。

まだ若いやり手に見える社長を真ん中にして、左が灯、右が茅野であった。

「はい、にこやかに笑って!」

カメラマンの合図とともに、何枚か写真が取られた。

それぞれが、ネクサス側から花束をもらい、それぞれが笑顔だった。

灯は、この日のことを一生忘れないだろうと、心に誓った。


それから、煙草組の7人と灯は、社長との会食をするため、車に乗って都内の高級ホテルに向かった。

ホテルに着くと、高級中華料理店に入って行く

ピンクのチャイナドレスを着たウェイトレスが、灯たちの部屋にご馳走を持って来た。

綺麗にお皿に盛り付けてもらうと、灯はため息をついた。

こんな素敵な時間が待っていたなんて。

隣の恵美が呟く。

「あの、チャイナドレス可愛いね。」

確かに、可愛いスタイルだ。

その日、社長は色々8人に質問してきた。

どういう風に、お客様と接しているのか?普段気を付けていることはどんなことか。

契約を取るために気を付けていることはどんなことか?等々・・・。

それを1つ1つ、丁寧に答えていく灯と、茅野。

皆はうんうんと聞いていた。

それから、皆はご馳走を食べながら、社長の話に耳を傾けた。

社長の苦労話。社長がどうやって、ネクサスを立ち上げたかなど、ウィットに富んだ会話で皆を時には笑わせ魅了していった。

社長を含めた8人は、素晴らしい時を過ごした。


それから、仕事が終わった夜10:00。

灯と正は灯のマンションにいた。

今日はクリスマスイブ。

灯の部屋のクリスマスツリーも綺麗な色を点滅していた。

正と灯は部屋に着くと、ふうーと、一呼吸した。

「お水持って来る?」

「ああ。お願いするよ。」

2人はその前に居酒屋に寄って、今日の打ち上げを2人でやってたのだ。

その後、ホテルに行こうとしたが、今日はクリスマスイブということに気付き、急遽灯のマンションに来たというわけだ。

正は氷入りの水をごくごくと美味しそうに飲むと、ふうーと一呼吸突いた。

「ありがとう、灯。」

「いいえ。」

まるで、夫婦みたいだ。

ふと、灯は思った。

正が、彼女と別れてくれれば・・・。

ふと、そんなことを考えてしまう灯であった。

「灯、今回の最優秀成績のお祝いと、クリスマスプレゼントを兼ねて・・・はい。」

そういって、正は黒い鞄から灯にピンクのリボンがかかった、プレゼントを渡した。

灯は暫く何も言えなかった。

正がそんな灯を心配する。

「どうした?灯?」

「私・・・プレゼントなんて・・・久しぶりだったから・・・恋人からのプレゼントなんて・・・。まさか、くれるとは思わなかった。・・・嬉しいよ正。」

灯は、涙を流していた。

それから、彼女はクローゼットから、正に渡すクリスマスプレゼントを出した。

「はい、これクリスマスプレゼント。気に入ってくれるかどうか分からないけど。」

灯は、恥ずかしそうにプレゼントを渡した。

「俺に?なんか嬉しいな、何だろう。灯も開けてみてよ。」

「うん。」

2人はお互いのプレゼントを開いた。

「ああ・・・」

感嘆の声を上げたのは、灯の方だった。

「香水だ・・・。」

見ると、ブルガリの『アクアプールオム』という、ブルーの色をした香水であった。

「なんか、灯っぽくてね。買っちゃった。男性用なんだけど。女性にも使えるらしい。」

「ユニセックスの香水ね。」

「そう言うのかな。仕事のできる女は、香水位付けてないとね。」

そういって、正は灯のくれたプレゼントを開けた。

「うわっ!!」

それはネクタイであった。

白くて、銀の見えるか見えないかの縁取りがついている、お洒落なものだった。

「仕事のできる男は、ネクタイもお洒落にしないと。」

灯はそういって、正のネクタイを外すと、新しいネクタイを付けた。

正の青いワイシャツにそのネクタイは映えた。

「別の男になったみたい。似合う?」

「うん。凄く似合っているよ。」

正は鏡の傍に行き、自分の姿を映した。

これはいい。一応出来る男に見える。

「出来る男に見えるよ。」

灯が、自分の気持ちを見透かしたように話す。

すると、灯の傍にあったプールオムに、正は目がいった。

「付けてあげようか。」

「香水?い・・・いいけど。」

正はその香水を手に取り、ふたを開けた。

何とも言えない、グレープフルーツの香りと、ローズマリーの香りが灯の鼻腔をくすぐる。

正は、まるで禁じられた遊びでもするかのように、灯の耳元にそれを付けると、ふうー・・・と息を吹きかけた。

どうやら、正は興奮してきたらしい。

「灯・・・。」

正はプールオムの香水を蓋を閉めてカーペットの上に置くと、灯に深くキスをしてきた。

それから2人は、布団の敷いてある部屋に移動すると、激しく抱き合った。

今日は、灯の付けている香水が堪らなく正を興奮させる。

灯は、幸せだった。

しかし・・・。

母が言っていた、正を彼女に返せと言う言葉が頭にこびりついて離れなかった。

その時、電話が鳴った。

正の電話だ。

「美智だ。ほっとけ。」

正は、そう言い、灯を抱き続けた。

しかし、その電話は10回コールして止まった。

灯と正は、驚いた。

誰か別の人か?

すると、また電話が鳴った。

正が着信を見ると、『田中さん』と書かれてあった。

田中さんとは、正が美智の世話をできないときに来る、近所の叔母さんである。

美智の両親は、遠く鹿児島にいる為、正とこの田中さんが世話をしていたのだ。

彼が電話に出る。

「もしもし。」

「ああ、正君?大変よ!みっちゃんが手首を切って自殺未遂を起こしたの!今救急車で病院に運ばれたわ。今どこにいるの?」

「美智が!?」

「みっちゃん、正君の事ばかり言っててね。正は何処だ、女の所にいるんだって、気が狂ったように・・・。とにかく病院に来てくれないかしら?」

「わかりました。今すぐ行きます。」

そう言って、正は電話を切った。

正の状況から、ただ事ではないと思った灯は、彼に聞いてみた。

「どうしたの・・・?」

「美智が自殺未遂を起こした。」

灯は、ついに来たと思った。

これが、正を彼女に返さなきゃいけない末路か・・・。

私は、正と幸せになっちゃいけないのか!

正は、支度を始めた。

そして服を着ると、鞄を持って玄関にいった。

灯が、下着を付けて、Tシャツ姿で正を送り出す。

「大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。また、灯の元に帰ってくるから・・・。」

そう言って、正は灯にキスをした。

しかし、それは最後のキスになった。

それから、正は扉を開けると、バタンと閉めて行ってしまった。

灯は嫌な予感がした。

もしかしたら、これで正と逢うのは最後になるかもしれない・・・。

そんな予感がする灯であった。


















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