第37話 二人の男

健一が、怒った様に二人のことを見ていた。

「どういうことだ?これは?」

彼が驚いた様に呟く。

「健一!!これは違うのよ!!この人は友達で話していただけなの!!」

そんな、嘘が健一に通るとは思えなかったが、灯は一生懸命否定した。

「話だけの奴が、こんな朝早くから灯の家で、一体何をしてたんだ?」

すると正が、灯と健一の間に割って入った。

「あの・・・俺、部外者ですけど・・・灯さんの事もう少し大切にしてあげたらいいんじゃないですか?1か月に1回。しかも朝方に来るなんて・・・灯さんだって仕事しているんですよ?」

「お前誰だ?」

健一が正に向かってぶっきらぼうに話す。

「灯さんと一緒の、会社の物です。」

正も負けない。

「灯との関係は?彼氏か?」

「それは・・・。」

正は黙った。

正の言葉を、灯は遮った。

「健一。この人は友達なの。結城さん。とにかく今日は帰って。」

「大丈夫かい?」

正が灯に聞く。

「大丈夫。何とかする。会社には何とか行くから。遅刻しても。」

「わかった。気を付けて。」

正は、そう言うと足早に駅に向かって、一目散にかけていった。

健一はその二人の姿を見て、この二人は只の中じゃないなと悟った。

彼は灯の手首を痛いほどつかむと、「こっち来いよ!」

と、灯の部屋に強引に向かった。

何故だ、灯も自分と同じことをしているだけじゃないか。

なのに、何故こんなに苦しいんだ。

今、健一の心を支配しているものは

嫉妬だった。


彼は灯を強引に部屋に入れると、勢いよくドアを閉め、灯を奥の部屋へと押しやった。

部屋は、先程正と寝ていた残像があった。

健一が言う。

「どういうことだ、灯!お前から愛人になりたいって言って来たんだろう?それが別の男を家に入れてるって、・・・何でだよ!」

灯は黙っていた。

黙るしかなかった。

こんな形で見つかってしまうなんて・・・。

灯は出来れば消えてしまいたかった。

そんな心境だった。

「俺というものがありながら、何でこんなことしたんだよ!」

「だから、あの人は単なる友達だから・・・。」

「友達がどうしてこんな明け方にいるんだよっ!しかも男だろ!?俺と別れたいのか?」

嘘だ。健一は今嘘をついていた。

本当は健一は灯と離れるのが怖いのだ。

涼子ともうまくいってなかったし・・・。

自分を唯一受け入れてくれたのが、灯だったのに・・・。

何故こんな裏切りをする。

灯が、健一に言う。

「いや!健一。それだけはやめて、あの人は単なる友達だから!」

灯が必死になって、懇願する。

「じゃあ・・・もうあの男を家には入れないな?」

灯は、一瞬黙った。

正も大事だ。

でも・・・私には健一が一番大事だ・・・。

灯は、惚れた弱みの轍を解き放たれることが出来なかった。

灯が言う。

「・・・入れないようにする・・・だから健一、お願いだから嫌いにならないで・・・。」

「本当だな・・・分かった。じゃあいつものように、俺を喜ばしてみろ。」

灯は、健一の言うとおりにした。

健一の秘部を咥えながら、涙を流していた。

彼は、灯が泣いていたことを知っていた。

でも、自分でもどうしようも無かった。

灯が、あの男と歩いている姿。

まるで、恋人同士だった。

それを、考えただけで、むかむかしてきて止まらなかった。

灯は、俺のものだ。

大切な、俺の都合のいい女だ。

あんな男に渡してたまるか!

そう思った健一は、灯を突然抱き寄せた。

そして、灯を優しくなで始めた。

灯は火が付いた様に泣き始めた。

そして、言った。

「健一!来るときは連絡してきてって、言ってあったじゃない。・・・私寂しかった・・・あなたが来なくて来なくて!」

「わかった・・・ごめんな。今度は2週間に一遍来るから。・・・だからもう泣くな。」

健一は泣いている灯にキスをした。

灯は泣きながらそのキスを受けた。

好きなのか嫌いなのかわからない。

でも、一緒にいると、この強烈な結びつきを感じるのは何故だろう・・・。

分からない

分からない

ただ、1つだけわかることは、私は健一を好きだという事だけだ・・・。

彼に抱かれながら、灯は思っていた。


それから

灯は10:30頃職場に現れた。

正が、ヘッドセットを付けながら、灯のことを見ていた。

あれから、大丈夫だったのだろうか?

彼女は、増沢に怒られていた。

最近遅刻が多いが、大丈夫か?と言っているみたいだ。

灯は、ずっと下を向いて、謝っているようだった。

それから、灯が仕事を始めようと席に着こうとしたとき、正と目が合った。

灯と正は、5秒ほど目を合わせていたが、灯がニコッと笑いかけると、そのまま席に座った。

そして、灯は仕事を始めた。

正は、灯の笑顔で、健一とうまく言ったのだと悟った。

しかし、正は浮かなかった。


昼休み。

灯の元に行こうとしたとき、煙草組の人たちがすでに灯の元に来ていた。

仕方がないので、コンビニエンスストアで昼食を買ってから灯に逢いに行こうとしたところ、

灯はいなかった。

多分、あそこにいるに違いない。

正は、灯を探して窓の大きな灯の憩いの場所に行った。

いた。

灯は、一人で疲れたようにコーヒーを飲みながらうな垂れていた。

「内田さん。」

正が言う。

「た・・・結城さん。」

灯は、あまりにも眠すぎて正と言いそうになってしまった。

彼女はきょろきょろした。

幸い、誰にも聞かれてなかった。

「どうしたんですか?結城さん?」

「ああ・・・ちょっと用事があったもので・・・。」

と、言いながら正は、嘘の用事を言いながら、灯に折りたたんだメモを握らせた。

「じゃ、そう言うことなんで。」

「分かりました。」

正はそう言うと、休憩室を出て行った。

灯は、折りたたんだメモを開くと、その内容を読んだ。

『今夜10時に新大久保のホームで待ってる。』

その一言が書かれてあった。

それを読んでると・・・

「灯。」

灯を呼ぶ声が聞こえた。

灯は、慌ててそのメモをバックにしまった。

見ると、煙草組の一人、松浦恵美が立っていた。

「何してるの?」

「いや、何でも。とにかく眠くて。」

恵美は、灯の様子を見て、最近灯がおかしいということに気付いていた一人だった。

そこで灯に問い詰めた。

「灯。最近何かおかしいよ。何かあったの?」

恵美は本気で心配しているようだった。

しかし、恵美にも話せないことはあった。

まさか、前につとめていた職場の男と、正と両方付き合っていて、その両方がバッティングしたんだなんて、死んでも言えない灯だった。

「何でもないよ。」

灯は一言そう言った。

「そう。分かった。でも無理しないでね。私達灯の味方だよ。」

私達とは、煙草組7人のことを指した。

恵美は席を立って行ってしまった。

彼女は、灯が疲れているように見えたのだ。

だから、彼女を一人にさせてあげたかったのだ。

恵美の気持ちに、灯は嬉しかった。

すると、灯に突然眩暈が襲った。

灯は、テーブルに突っ伏した。

まただ、この眩暈。何なんだろう。疲れているのかしら。

灯は、少し不安になった。


仕事が終わり、灯は新大久保のホームで正を待っていた。

灯が仕事が終わるのはPM9:00。

正はPM10:00に終わる。

今日、灯は少し残業した。

なので、PM9:30に終わった。

それから、ホームの椅子に座り正を待つ。

季節は、少し秋の気配を感じつつも、まだ暑かった。

新大久保のホームの電気には虫が集まっていた。

そう言えば今日は金曜日だった。

正が家に来る予定だった日だ。

30分くらい待っただろうか。

正から着信が入った。

「今、何処?」

「新大久保のホームの席に座っているよ。」

見ると、正がこちらに向かってくる。

灯が手を振った。


それから2人は池袋のホテルにいた。

灯の部屋は危険だと、正が思ったからだ。

正は、灯からすべてを打ち明けられた。

正はそれを聞き、指を組んで下を向いてしまった。

灯が言った。

「今日限りで辞めない?この関係・・・。」

正は首を振った。

「だって、あなたの彼女だって気付いているし・・・。」

「いやだ。」

正が、かたくなに拒んだ。

灯が遂に本音を爆発させた。

「じゃあ・・・別れられる?彼女と。」

「それは・・・」

正は迷った。それは無理だ。どう考えても彼女が別れるわけない。

彼女の性格からして、自殺でもやりかねない。

でも、俺は・・・!

「灯!」

正が灯を抱き締めた。

そして言った。

「今まで通り、この関係続けよう。俺お前の事離したくない。」

灯は思った。

私だって離れたくない。

でも・・・健一がいる。

正が彼女と別れたら、私も健一と別れられるかもしれない。

私は、やっぱり愛人どまりなんだろうか・・・。

悲しみが灯を襲った。

すると・・・

『プルルルル。プルルルル。』

正の携帯が鳴った。

着信は、美智であった・・・。














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