第35話 正との一夜

正と灯は彼女のマンションに来た。

灯は鍵を開けると、正を中に入れ鍵を閉めた。

女性らしい部屋に正は、周りを見渡した。

ピンクのクッションに、薄紫のカーペットの部屋だった。

灯がアイスコーヒーを作って持って来た。

正はそのコーヒーを美味しそうに飲んだ。

クーラーがついている、その部屋はシーンと静まり返っていた。

正が話す。

「いい部屋ですね。」

「そう?普通の部屋だけど。」

灯が、アイスコーヒーを飲みながら煙草を吸う。

正が、言いにくそうに話し始めた。

「内田さん。さっきの話だけど・・・昔何があったの?」

灯は、下を向いて俯いた。

「言いにくいなら、話さなくていいよ。内田さんを傷付けるつもりは無いから・・・。」

正が話す。

「でも、聞きたいから私の部屋に来たんでしょう?」

灯は、煙草の火を消した。

そして、正に煙草を勧めた。

27歳の正は、灯より9歳年下だ。

そんな男性は、今まで私のマンションに入ったことはなかった。

しかも、自分のことを、本気で心配してくれている。

灯は泣き始めた

苦しかったのだ。今の自分の状況が・・・。

健一から愛人扱いされ、1か月に1回しか来ず、セックスでは無理難題を押し付けられる。

しかも、早朝に来るので、仕事に支障も来ている。

一応、生理と言う事にしているが、それもいつまで続くか。

私は、どうしたらいい。


正は、彼女が泣くのでどうしたらいいか分からなかった。

内田さんは仕事が出来る影で、こんな1面も持っていたのか。

正は、思わず彼女の髪の毛を触ってしまった。

灯が、思わず正の方を見る。

正が、彼女を見てニッコリ笑顔を見せた。

2人は、見つめ合った。

暑い日だった。

8月の気温は2人の心まで狂わせたのか、正は灯を抱き締めた。

灯も最初は驚いていたが、されるがままになっていた。

灯の涙は止まらなかった。

それを、唇で拭う正。

そして・・・

2人は、長い口づけを交わした。

何故、こうなってしまったのか正にも灯にも分からなかった。

ただ1つだけわかることは、お互い心に潤いが欲しい物同士だった。

だから、惹かれたのかもしれない。

これが、大人の交わりなのか。

灯は、正に抱かれながらふと思った。

健一より優しい唇

健一より優しい舌や指使い。

ただ2人とも、お互いをもっと感じたいその気持ちで一杯だった。

灯は、正の中で何度もイッた。

幸せであった。

これが、男なのか。

この、健一とは違う優しい抱き方をする、こう言う人もいるんだ・・・。

灯は久しぶりに、男によって癒されていた。


正は、思っていた。

彼女とは違った反応をする・・・。

なぜ、彼女を抱いてしまったのか分からない。

ただ、彼女の涙を見た時今の自分と重なった。

だから、抱いてしまったのかもしれない・・・。

それは、彼も毎日に疲弊していたからだ。


2人は、セックスが終わった後も、見つめ合っていた。

そして、どちらともなくキスを交わした。

そして、また抱き合った。

不思議な不思議な感覚・・・。

それが、結城 正とのセックスであった。


正はセックスが終わった後、今の自分の状況を話し始めた。

「俺には彼女がいる。でも・・・。最近はご無沙汰だったんだ。その彼女は心の病気で、前の夫にかなりひどいDVを受けていた。彼女は幼馴染で、いつも一緒にいた。でもいつからか、彼女の方が別の男性を好きになっていた。それが、DV男と言うわけさ。」

灯は正の身体を触りながら、寝物語に聞いていた。

「彼女は結婚した、俺の制止も聞かずに。そして子供が出来た、それがこの子さ。」

正は定期ケースから、子供の写真を取り出した。

可愛い、6歳くらいの子供が、笑顔で正と写っていた。

「正太郎って言うんだ。この子が前の旦那との間に出来た子供というわけさ。」

「可愛い。結城さん。いい顔している。」

「正でいいよ。」

「わかった。じゃあ、私も灯で・・・。」

2人は、軽くキスをした。

正は言った。

「じゃあ、次は灯の番。」

「何が?」

「さっき、はぐらかしたよね。灯が泣いたわけ。聞かせてよ。」

灯は、少し迷ったが話し始めた。

日比谷のパチンコ屋にいて、そこで知り合った従業員と恋に落ちたこと。一回別れたが、また再燃したこと。しかし最近エッチで、無理難題を言ってくるようになったことと、自分が愛人になりたいと言ってしまったばかりに彼が私を都合よく扱っていて、苦しいんだということを話して聞かせた。

正は一通り聞いた後、「ひどいな・・・。」と、ぽそっと一言言った。

「灯は、続けていきたいの?その男と?」

「最初は・・・愛していた。でも最近分からなくなっちゃった。私が悪いのは分かっているんだけど、

もうちょっと、優しく扱ってほしい。」

灯が感情的になって話す。

正はしばらく考えていた。

そして言った。

「俺、彼女と別れることは出来ないけど、君を慰めることは出来るよ。」

「遊びって事?」

灯が聞いた。

「遊びじゃなくて・・・いずれかは彼女とも別れるよ。だからこの関係続けないか?」

灯は思った。

健一より優しい抱き方をする人。

今、私にはこの人が必要なのかも知れない。

灯は言った。

「一週間に一回なら・・・いいよ。でも、仕事は仕事だからね。」

「分かりました。灯様。」

正が冗談を交えて言う。

彼が来るのは金曜日の夜になった。

健一が来るのは、平日。

ブッキングすることはないだろう。多分。


しかし、これが灯の間違いであった。


この後正と灯は、恋人関係を1年持つことになる。












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