第32話 冬の日
翌日。
灯は寝不足だった。
昨日健一が、朝まで寝かしてくれなかったからだ。
灯はあくびばかりしていた。
そこで、上司に怒られる始末。
何とか、1件取らなきゃ。
と、思いながらも、灯は内心幸せだった。
健一は、あの後、私の事を朝まで情熱的に抱いてくれた。
やっぱり、健一は、私の事が好きなんだわ。
今度は、いつ来るんだろう。
健一は、詳しいことは話していかなかった。
ただ、自分の仕事のことについては話していった。
今健一は、夜中の仕事に移った。
ビルメンテナンスの仕事に移ったのだ。
要するに、ビル全体の配置換えを夜中にする仕事だ。
それの主任監督をやっていたのだ。
仕事は忙しく、涼子と逢っている暇もないほどだという。
休みは不定期で、ダーツバーに行くのがやっとの生活で、そこで灯のことを聞いたそうだ。
だからこっちの都合に合わせて欲しい。
彼は灯にそのように寝物語に伝えた。
下手をすれば1か月来れないかもしれない。
そのように健一は灯に伝えた。
灯は思った。
健一が私にここまで話してくれるなんて・・・。
きっと、私を必要としてくれてるに違いない・・・。
灯は寝不足の頭で、そんなことをぼーっと考えていた。
出来るだけ、健一の役に立つようにしよう。
だって、それが私の愛だから。
これから、私は健一の恋人になるのよ。
灯は、何か勘違いしていた。
健一が来ないときは、灯は仕事一筋だった。
でもやっぱり、無性に寂しくなる時があった。
何故なら、電話を掛けることも止められていたからだ。
そんなときは、占いダイヤルに頼っていた。
健一のことを、最低男という占い師もいたし、また、結ばれるかもしれませんと言ってくれる占者もいた。
灯は、その度に一喜一憂し、占いを続けていく・・・。
そんな生活が続いていた。
時々、みずほから、留守電が入っていることがあった。
だが灯は無視をした。
いまや、灯は厳しいことを言ってくれる人を排除していた。
そのせいで、親にも連絡をしなくなった。
そして、健一は1か月に1回。夜中に来るようになった。
しかも平日だ。
灯は、何とか、私の休みの日に来ることは出来ないの?と聞いてみた。
だが、健一の仕事が不定期なので、無理だと一括された。
あんまり、言う事を聞かないと来ないぞ・・・とも言われた。
灯は、それだけは止めてくれと泣いて懇願した。
彼女は我慢するしかなかった。
そんな、冬を過ごしていた。
仕事は楽しいが、恋愛は最悪だった。
ある日、彼女は健一のいない時間に、ダーツバーの安田に会いに行った。
さすがの灯も、今の状況が苦しくて、健一を良く知っている彼に会いに行ったのだ。
2月のある夜。
バレンタインが間近な頃だった。
安田が、ソルティドッグを作ってくれると、灯にこういった。
「灯ちゃん。君は、愛人でもいいって言ったよね。だから健一は実行してるだけだよ。君がそんなことを言わなければ、健一とも友達になれたかもしれないのに・・・。」
「私が、いけないんですか?」
「いけないとか、そう言うことじゃなくて、覚悟が無ければそんな事言っちゃだめだよ。健一は、灯ちゃんと遊べると思って灯ちゃんのマンションに行ってるんだと思うよ。男と女の大人の遊びが分からないうちは、安易に愛人何て言ったらだめだよ。傷付くのは灯ちゃん。君だよ。」
そうなのか・・・。
私は、勘違いしていたのかも知れない・・・。
健一は、私と遊びたいからマンションに来てくれただけ・・・。
心は・・・無かったのか・・・。
「安田さん。健一は・・・健一には私に対する心が無いのですか?」
安田は、煙草に火を付けながら、灯の質問に答える。
「それは、心はあると思うよ。じゃなければ、男と女の関係は成立しないからね。でも、健一には涼子がいる。だから、休みの日は逢えないんじゃないかな。灯ちゃん。辛いなら、もうやめた方が良いんじゃないかな?それでも、君が健一と続けるなら、俺は止めないけど・・・。」
そうか、男と女ってそう言うものなのか・・・。
灯は思った。
健一は、ひと時の快楽を、私で埋めに来ているだけなのか。
私は・・・どうしたらいい・・・。
健一と別れて、一人になるか。
続けるか。
灯は、一人、心が張り裂けそうなほど、悩んでいた。
灯が悩み続けている間も、彼は1か月に一回、マンションに現れた。
そして、灯を激しく抱いて、帰っていく。
時には、アナルセックスをしたいと、言ってきた。
勿論、灯は拒否した。
それだけは、絶対嫌だと言った。
健一は、面白くなさそうだったが、灯は、断固拒否した。
このころ、彼女の心に変化が訪れたのだろうか?
健一に、少しはっきり言える様になってきた。
そんな事を繰り返して、春になった。
ネクサスも、会社の人事異動があった。
朝礼の時、その男性は現れた。
「結城 正です。よろしくお願いいたします。」
灯たちの、電話営業部に、新入社員が入ってきたのだ。
全体的に細く、しょうゆ顔の彼は、灯を見るとニッコリ笑顔で挨拶をした。
これが、灯と正の出会いであった。
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