第27話 久しぶりの相談

灯が、怪我をしてそれから3週間。

灯は、何とか自分で立てるようにはなってきた。

そこで今回の健一とのことを久しぶりにみずほに会って、話そうと思ったのだ。

今日は日曜日。

みずほの休みの日だ。

灯は、みずほに電話をしてみた。

『プルルルル。プルルルル。』

『ガチャ』

「灯?久しぶり。」

「みずほ?」

「どう?仕事の方は順調?」

みずほは洗濯物を干しながら、灯とイヤホンマイクで話していた。

「うん・・・。何とか・・・。ただ、私怪我しちゃって・・・。」

「怪我?そりゃまた何で?」

みずほが聞いた。

「それは会ってから話すよ。ところで、今日会えるかな?」

「今から?」

「うん・・・。相談したいこともあるし・・・。」

「別に構わないけど・・・灯は大丈夫なの?怪我してるって言ってたけど・・・。」

「大丈夫。だいぶ落ち着いたし・・・。会えるかな?」

「灯が良いなら、いいわよ。ただ、私ショッピングに行こうと思ってたんだけど・・・新宿でもいい?」

「いいよ。大丈夫。」

「わかった。じゃあ・・・PM5:00に新宿の西口前で。」

「了解。」

そう言ってみずほは電話を切った。

灯は携帯を置くと思った。

みずほに会うの久しぶり。彼女は私の提案を許してくれるだろうか?

弱冠不安に思う灯であった。


PM5:00みずほと灯は久しぶりに新宿であった。

彼女たち2人は、ウィンドウショッピングを楽しんだ。

みずほが、カジュアルスタイルの服を買った。

会社に来ていくという。

灯は、みずほが羨ましかった。

社員で、何でも出来て、お金もたくさんもらってる。

灯は、自分に自信が無かった。

だから、みずほに活を入れてもらいに来たのかもしれない。

だから、彼女に会いたかったのかも知れない。

ふと、灯は思った。


彼女たちは、西口の方にある、ホテルのワインバーに来ていた。

ピアノが奏でるその美しい旋律は、そのバーを大人びた雰囲気にしていた。

棚には、高級なワインが所狭しと並べられており、ワイン樽もオブジェとして置かれていた。

ここは、みずほが仕事の打ち合わせで使う場所であった。

灯は、こんな高そうなところ久しぶりだと思った。

健一との最後のデート以来だ。

2人は、ワインで乾杯した。

久しぶりに会ったみずほは、一段と輝いていた。

ドレープの利いた紫のワンピースに身を包んだみずほは、大人だった。

灯は水色のフリルのブラウスに、紺のフレアスカートだった。

みずほは、こんなお洒落な店を沢山知っていた。

殆どが仕事で使うらしいが、やっぱりみずほと会う時は、お洒落してきてよかったと思う灯であった。

みずほが、スティックサラダにアボガドのディップを付けて食べていると、オードブルのセットが運ばれてきた。

いくら、ハム、アボガド、小エビ等が、バランスよく一口サイズに盛り付けられていた。

灯は、サーモンのマリネを食べながら、そのセットに驚いた。

高そうである。

大丈夫かな・・・お金・・・。

内心思う灯であった。


みずほが、2杯目のワインに入ると、灯に早速聞いてきた。

「それで、どうして怪我したの?」

「うん。新橋の階段で人とぶつかって、階段から転げ落ちたの。」

灯が、オードブルのイクラを食べながら話す。

「転げ落ちた~!?大丈夫なの!?灯!?」

みずほが驚く。

「うん。あれから3週間たってるし、大分落ち着いたよ。」

「で、労災は降りたの?」

「うん。だから、何とか生きてる。」

灯が冗談を言う。

「大変だったね。」

「うん。まあ、仕事きつかったし。休みには丁度いいかなあって・・・。」

そういって、灯はワインを飲んだ。

「で、相談って、何?」

灯は、きた・・・と思った。そこで、まず無難な相談から話し始める。

「職を・・・変えようと思って・・・。」

「転職?いいんじゃない?灯の年齢だとぎりぎりだね。」

みずほが小エビのオードブルに手を付ける。

「うん・・・。私も35歳だし、そろそろ落ち着いた仕事がしたいなあっと思って・・・それでみずほに相談したの。」

「いいんじゃない?灯も大人なんだし。いつまでもパチンコ屋って言うのもね。」

「そうなのよね。」

ああ・・・こんな話がしたいわけではないのに。

みずほが煙草に火を付ける。

そして美味しそうにくゆらせる。

「話ってそれだけ?」

きた。ついに、話さなければならない。

「あのね、みずほ・・・私・・・。」

「うん?」

みずほが更に煙草を吸いながら聞く。

「私・・・。」

灯は、思い切って言った。

「私、健一ともう一度お付き合いしたい!」

みずほは、灯の言葉を聞き

「はい~?」

と、思わず口に出した。

そして言った。

「何言ってるの・・・灯?」

灯は、下を向いて黙っていた。

みずほは思った。

何言ってるの?この子は?

あんなにひどい目に合ったのに・・・。まだ、懲りてないのか。

しかし、みずほは冷静だった。

「まだ、忘れられないの?」

「忘れられない!だって、あんなに激しく抱いてもらった事なんて、生まれてこの方一度も無かった。

私、愛人でもいいから、健一と付き合いたい!」

みずほは、心の中で溜息をついた。

やっぱり、一度痛い目見ないと駄目だな。

この子のことだから、私が何を言っても聞かないと思うし・・・。

でもこの子、どうやって健一と会うつもりだろう。

一応、私は健一の電話番号を知っているが、口止めされてるし・・・。

「どうやって、生田君と会うつもり?」

みずほが聞く。

灯が、つぶやくように話す。

「・・・私この間、健一のダーツバーの名刺を見つけたの。足が治ったら行くつもり。だからその前に、みずほに相談したかったの。」

灯が、みずほに言った。

みずほは、暫く黙っていた。それから一言

「・・・勝手にすれば。」

「えっ?」

「だって、私が止めたって、灯は行くんでしょう?だったら、私が言うことは何もない。勝手にすれば?」

「みずほ・・・。」

灯は、何故か自分が付き離されたような気がした。

一言、怒ってほしかったのかも知れない。

それなのに、みずほからは、気のない返事・・・。

何故か、灯は後ろめたさを感じていた。


レストランから出て、みずほと灯は別れた。

みずほは灯を、本当は怒りたかった。

しかし、怒ったところで、灯が言うことを聞くとは思えなかったし、灯が懲りないとたぶん無理だという事も彼女は知っていたからだ。

だから、彼女は灯を突き放したのだ。


灯は灯で、家に帰ってからも、なんとなく眠れずにいた。

あの、みずほの言葉。

気になる。

でも、私は決めたんだ、健一に逢うって。逢って、本当の気持ちを言うんだって。

しかし、灯は眠れずにいた。









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