第2章 第25話 執着
あれから・・・1年がたった。
灯は今、別のパチンコ屋で働いていた。
健一は、あれから電話番号を変えており、灯は一切連絡が取れない様になっていた。
健一のいない寂しさを埋めるかのように、彼女は必死に働いた。
働いているときだけ、彼のことを忘れられた。
プライベートは、友達とお喋りしたり、相変わらず占いダイヤルにも凝っていた。
その他に、体が火照ると、マッチングアプリで知り合った、男と抱き合ってた。
しかし、どれも、満たされることはなかった。
一方、健一は、涼子との付き合いを続けていた。
仕事も、深夜に変え固い仕事に移り、今はアルバイトを教育する立場に立っていた。
そして、1週間に1度あっては、休みの日を涼子の為に使っていた。
涼子は灯と違って、お預けもするし、激しく攻めてくる時もあり、彼はその状況を楽しんでいた。
何より涼子とは趣味があった。ダーツが得意な涼子は、健一を楽しませていた。
しかし・・・最近、涼子はおざなりのセックスしかしなくなった。
何故か、会う頻度も少なくなっていった。
ダーツバーには相変わらず来ていたが、2人の関係は微妙になって行った。
健一は、時々思い出す。
灯との最後のセックスを・・・。
しかしそこに戻れば、涼子との関係が崩れる。
微妙な立場にいた健一であった。
ある日
灯は、いつものように新橋まで出勤しようとしていた。
JRの階段を降りようとしたとき
人とぶつかった。
灯は、そのはずみで、階段を転げ落ち、怪我をした。
「い・・・痛い・・・。」
慌てて、駅員が駆けてくる。
「救急車。救急車!!」
救急車がほどなくやって来て、灯は総合病院に担ぎ込まれた。
幸い頭は打ってなく、しかし1か月の骨折と判断された。
労災も降りて、生活に支障はなくなったが、彼女は考えた。
「このまま、パチンコ屋をやってていいものだろうか・・・。」
灯の葛藤が続く。
パチンコ屋をやっていた原因は、あの仕事が楽しかったからだ。
しかし、店を変えて1年。
現実はそんなに甘くなかった。
前より大きい店だったし、女性従業員も多くいた。
中には、灯に意地悪をしてくるものもいた。
彼女はシオンの環境が、どれほど灯を守っていてくれていたのか、まざまざと知った。
もう彼女は、35歳になろうとしていた。
転職にはぎりぎりの歳であった。
「・・・やめようかな・・・。」
灯は、もしかしたら健一も同じ職業についているかもしれない、と思ってパチンコ屋を選んだのだが、体はもう持たなかった。
彼女は、健一に逢いたかった。
1年たっても、彼のことが忘れられなかった。
「逢いたい。逢いたい。健一に・・・。」
彼女は、怪我をした足を見つめながら、泣き崩れた。
彼女は、また占いダイヤルに電話をした。
『プルルルル。プルルルル。』
「はい。ロゼッタです。」
「あの・・・占いをお願いしたいのですが・・・。」
「かしこまりました、お名前をご頂戴してもよろしいでしょうか。」
「はい。内田 灯と申します。」
「生年月日を教えてください。」
「19××年11月20日です。」
「はい、了解しました。いつもの先生でよろしいですね。」
「はい。」
「それでは、10分ほど電話を切ってお待ちください。」
灯は電話を切った。
彼女は、占いダイヤルを6件はしごしていた。
彼女の1か月の占いダイヤル代金は10万を超えていた。
今日は、健一について聞いてみようと思っていた。
そういえば、最近みずほに電話していない。
灯は思った。
彼女と、会社が遠くなった途端に、話すことが無くなったのだ。
それに、みずほは言いにくいこともズバッと言うし・・・
灯にとって、苦痛なことを言う存在であった。
みずほは元気でやってるだろう・・・私が怪我したことを言わなくても別に大丈夫か・・・。
そんな事を考えていると、占い師から電話がかかってきた。
「もしもし。」
「灯ちゃん?愛羅です。今日はまた健一君の事?」
「はい・・・。健一に逢いたくて、占ってもらいたくて電話しました。」
「分かりました。じゃちょっと見て見ましょうね。」
占い師は、タロットカードをシャッフルし始めた。
そして、3つにカットし、綺麗に並べていく。
「うーん・・・。」
占い師が、うなる。
「現在健一君は彼女と幸せに暮らしていますよ・・・でも・・・。」
「でも、何ですか?」
灯が言う。
「何か、彼女が浮気してるみたい。」
灯は、目を輝かせた。
「本当ですか!!」
「ええ。それで健一君は、彼女の気持ちが分からないみたい。」
「そうですか・・・。」
灯は、真剣に聞いていた。
もしかしたら、これはチャンスかも知れない・・・。また、健一に逢えるかも知れない。
相変わらずの、変なポシティブさである。
「で、どうしたら、健一に逢えますか?」
愛羅は目をつぶった、彼女が言うには*チャネリングをしているらしい。
それからしばらくして、彼女は目を開けた。
愛羅が答える。
「思い出の場所に行ってみるといいですよ。例えば、彼が行きつけの場所とか・・・?」
「行きつけの場所・・・。友達が経営しているバー?でも、私言った事無いし。」
「なんか、趣味の所って言ってるみたい・・・。」
愛羅は、言った。
「趣味・・・健一の趣味と言えば・・・。」
ダーツ!
「ダーツバーに行けと言う事ですか?」
灯が、愛羅に訪ねる。
「・・・そうね。そこがいいかもしれない。」
愛羅は答えた。
それから、灯と愛羅は小一時間話をして、電話を切った。
ちなみに、愛羅の鑑定料は1分間200円である。
灯は、何としても健一に逢いたかった。
彼女は、前健一にもらった、ダーツバーの名刺を思い出した。
シオンの同僚たちと1回行ったところだった。
灯は、痛い足を引きずりながらも必死になって、その名刺を探した。
「ないなあ。どこに行ったんだろう・・・。」
家じゅうをひっくり返し、夢中になって探した。
足は痛かったが、彼女は懸命に探した。
「確か、黒い名刺だったような・・・。」
すると
二時間ほど探して、ようやく見つかった。
黒い名刺に、名前がエデンと、書かれてあった。
「ここに行けば、健一に逢える・・・。」
灯はすぐさま行きたかった。
でも、この足ではいけない・・・。
途方に暮れている灯であった。
*チャネリング もう一人の自分から情報を得て未来を切り開く占い方法。
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