第23話 別れ
翌日、灯は一睡も出来なかった。
何故か分からないが、みずほから夜、着信が入っていた。
しかし、灯はその電話を取る気にもなれなかった。
灯が、欲しかったのは健一からの連絡であった。
なぜ、健一はあの時、私の手を振り払ったんだろう・・・。
私が、邪魔だったって事?
だって、求めてきたのは健一じゃない?
健一は、私の事好きだったはず・・・。
でも、本当は私より涼子さんの方が、好きだったのかしら。
これからどうしよう・・・。
新しい、仕事も探さなきゃならないし。
占いダイヤルの、支払いもたまっているし・・・。
今、占いダイヤル出来なくなったら凄く困る・・・。
灯は、ぐるぐるぐるぐる考えていた。
ふいに、灯のお腹が鳴った。
そう言えば、私昨日から何も食べていない・・・。
でも、何も作る気がしない。
途方に暮れていた灯の前に、携帯が鳴った。
灯は、元気なく携帯を取ると
それは、健一からの着信であった。
慌てて取る、灯。
「も・・・もしもし!健一!?」
「灯?」
健一の声だった。
「ごめんね・・・私・・・私・・・。私がもっときを付けていれば・・・!」
灯が、必死になって謝る。
すると、健一は、妙にけろっとした感じで
「今から逢える?」
と、言ってきた。
「えっ?」
灯は、突然の健一の言葉に驚いた。
「いいよ。でも、わたし、化粧もしてなければ、ご飯も食べてない・・・。」
健一が時計を見ると、AM10:30だった。
「じゃあ、12:00に、有楽町の時計台の前で待ち合わせはどう?」
「いいよ。大丈夫。」
「OK。じゃあ12:00に。」
そういって、健一は電話を切った。
灯は、携帯を閉じると、途端に目の前が明るくなった。
やった・・・!健一からのお誘い。デートだ!」
やっぱり健一は、私の事を好きだったのね!
灯は、先程の思いはどこへやら、嬉々として支度を始めた。
「まずは、シャワーだわ。洗い流すパックを使って行こう。」
灯はテンションが上がっていた。
本当に単純な女だ。
なぜ、健一が突然電話を掛けてきたのか知りも知らず、彼女はいそいそと支度を始めた。
電車に乗った灯は上機嫌であった。
前から、買ってあったおニューのパンプスと、膝丈ぐらいのサーモンピンクのフレアスカートといった、春っぽい軽やかな衣装に身を包んでいた。
健一、気に入ってくれるかな。
前の日に、灯の手を振り払ったことなどきれいさっぱり忘れてしまったかのように、灯はご機嫌であった。
有楽町に向かう電車は、滑るように灯を乗せて走って行った。
時計台に着いた。
時計は、もうすぐで12:00を指そうとしていた。
灯は、ウキウキしながら、でもちょっと不安も持ちながら、ただ待ち続けた。
なぜ、急に健一は私を呼んだんだろう。
嬉しいけど、何か不安。
そう、彼女が思っていると・・・
背後から、「灯!」と声がした。
見ると、健一が、笑顔で立っていた。
今日の健一のファッションは、いつもと違う感じだった。
青のデニムに、Tシャツは黒の無地に、赤と青のチェックのシャツを羽織っている。
灯は、いつもと違う健一のスタイルに、ときめいてしまった。
健一は「さあ、行こう。」というと、灯の手を引いた。
いつも、触られている手なのに、灯は妙に新鮮に思えた。
健一と、灯のデートが始まった。
「まずは、腹ごしらえだね。」
健一はそう言うと、ある、おしゃれなショッピングモールに入って行った。
そして、エレベーターの中に入ると、8階を押した。
灯が、8階の所を見ると、高級レストラン街になっていた。
「えっ?レストラン?」
私、お金あまり持ってきてない・・・。
と、灯は考えたが
あっという間に、レストランに着いた。
感じのいい、中間色の淡い光で照らされたそこは、高そうな空間だった。
灯が囁く。
「健一、なんか高そうだよここ。私そんなお金持ってきてないよ。」
「大丈夫。ランチだから。今日は俺が全面的におごるよ。」
「え、いいの?」
「平気平気。」
と、健一はつぶやいた。
この、レストランは、涼子と健一が頻繁に利用しているところだった。しかもディナーで。
ディナーだと、一人、5000円はするところだった。
しかし、ランチだと、一人半分の金額で食べられる。
それを見越して、健一は選んだのだ。
2人は、30分ほど待って、やっとテーブルに着くことが出来た。
健一がリブステーキを、灯がエビフライのタルタルソース掛けを頼んだ。
2人の会話が弾む。
健一は、自分の出来事を、口調滑らかに話し続けた。
ただ、仕事でのことは避けているようにも見えた。
灯は、自分が大事にされていると思い込んでいた。
彼女として、認めてもらえたんだと、思っていた。
今日の私のスタイル、健一気に入ってくれたかな。
そんな事を思う灯であった。
食事が終わった後、彼等は映画館に行った。
今流行の、映画を見る為である。
灯は、恋愛映画を希望した。
健一は、アクション映画を希望する。
結局、アクションになった。
映画を見終わった頃には、日も暮れていた。
夕食は、軽くファーストフードですまし、その後夜は、カラオケで過ごした。
久しぶりに聞く、健一の声に、灯は、酔いしれていた。
お酒も美味しかった。
灯は、健一に何回もリクエストした。
健一がその度に、歌い始める。
勿論、灯も歌ったが、健一の方が何倍も上手いと灯は思った。
この、楽しい時間が、いつまでも続いてほしい。
いえ、これからは、ずっと続くのよ。
だって、健一はこんなに優しいし・・・。
灯は、そう思いながらも、何か釈然としない思いもあった。
まるで、魚の骨が喉に引っかかっているような感覚。
彼女の目に、次第に涙が出て来た。
健一は歌うのを止めた。
「どうしたの?灯?」
灯は涙が止まらなかった。
「なんか・・・涙が出て来て。」
それから、彼女は健一の懐に飛び込んだ。
「好きよ・・・健一・・・。ずっと私の傍にいて。」
健一は、泣いている灯を抱き締めた。
そして、言った。
「・・・出よう。」
外は、雨が降っていた。
2人は、場所を移し、鶯谷に来た。
ここは、ホテル街だ。
今日は金曜日だった。
なかなか、ホテルが見付からない
2人は歩いた。
灯の持って来た折りたたみ傘に、二人で入った。
30分ほど歩いただろうか。
満室のホテルの中に、一つだけ部屋が空いているホテルがあった。
健一が、灯に軽くキスをする。
2人は、そのホテルに入って行った・・・。
ホテルに入って、二人はまず、雨に濡れた体を拭いた。
「やだー鞄もお洋服もびしょびしょ。」
灯は、洋服と、鞄をホテルのタオルで拭いた。
すると、健一が、灯の座っていた白いソファーに座る。
「灯・・・。」
「えっ?」
健一が灯の唇を塞ぐ。
灯は、されるがままになっていた。
健一の、いつもの舌使い。いつもの唇。
どんなにか、この日を待ち望んでいたか。
健一、私を離さないで。めちゃめちゃにして。
私は、この人に遭う為に、ここに生まれたんだ。
健一が、唇をゆっくり離すと、一言言った。
「シャワー。浴びようか?」
彼は、今日は妙に優しかった。
健一は、ホテルのバスタブをお湯で一杯に貼ると、灯をその中に入れ、自分も灯の背後から入った。
さあ、どうやって、今日彼女を喜ばせるか・・・。
健一が考える。
今日は、今までにない最高のセックスを・・・!
そう思うと、灯にゆっくりと唇を近づける。
灯もそれに応じた。
2人は、溶けていくようにキスをする。
健一、好きよ。好きよ。愛しているわ。
灯が心の中で思う。
健一は、ゆっくりとキスをしながら、ゆっくりと灯の胸に手を伸ばした。
それだけで、灯はイキそうになった。
秘部からは、蜜があふれだした。
健一は、その蜜があふれている秘部に指を入れ、すくった。
灯の喘ぎ声が聞こえる。
それだけで、健一は嬉しかった。
涼子は、マグロで、俺のことを行かせてくれない。
もし、灯が、もうちょっと遊びが上手い女だったら・・・。
灯の秘部を、かき回しながら、健一は思った。
そして、彼女のクリトリスを軽くつまむ。
灯は、頭を左右に振った。
感じている。
可愛い、可愛い灯。
健一は、灯に軽くキスをした。
灯が言う。
「もう・・・だめ・・・健一・・・私・・・。」
「何?どうして欲しいの?」
彼が耳元でささやく。
「私・・・貴方が・・・欲しい・・・。」
健一は、灯の言った言葉を、受け止めたくなかった。
もうちょっと、いじめたかった。
でも、それは、ベットでも出来る。
彼は、彼女にこういった。
「・・・出ようか・・・。」
健一と灯は、お互いの体を拭いた後、健一が先にベットに入った。
それから、バスタオルをまいて、灯が恥ずかしそうに入る。
2人は、見つめ合った。
「灯。可愛いよ。」
それから、彼は、灯の耳を軽くかんだ。
灯は、彼をゆっくり抱き締めた。
「健一・・・愛してるわ。」
もう・・・何もいらない。あなたさえいれば・・・。
灯は、今至福の時を迎えた。
健一が、自分の秘部を初めて舐めてくれたのだ。
灯は、死ぬほど嬉しかった。
そして、これ以上ないという程感じていた。
彼の手、指、舌、どれもが、灯にとって愛おしかった。
健一。私を離さないで、離さないで!
離れたくない!
彼女はイキまくっていた。
俺が、涼子にやっていることと同じなのに、何故こうも身体が反応するのだろう?
灯は、やっぱり、本気で俺のことが好きなのか。
だとしたら・・・。
辛い気持ちが、彼を襲った。
いや、今日は、今日だけは、俺は灯の恋人だ。
「好きだよ。灯。」
健一は、思わず言葉を漏らしてしまった。
灯は、ハアハア言いながら答える。
「本当?健一?」
「ああ!好きだよ!灯!」
「健一!私を離さないで!」
泣きながら灯が言った。
2人は、溶け合う様に抱き合った。
そして、灯が絶頂に上り詰める。
「健一・・・私・・・イキそう・・・。」
「いいよ。灯。おいで・・・。」
灯に、金色の光が見えた。
そして、激しい痙攣と衝撃。
彼女は、健一に、掴まった。
彼は、更に攻めてくる。
灯は、今、本当に人生で一番の至福の時を、味わっていた。
その間に健一は、灯が何回イッたか、回数を数えて灯に教えていた。
健一は、灯をイかすことに、喜びを見出していた。
2人は、それから夜も寝ずに、抱き合っていた。
激しい一夜が明けて・・・。
灯は、目を覚ました。
隣で健一が眠っていた。
私、いつの間にか、眠ってしまったんだ。
灯は、昨日のことを思い出していた。
この人が、私を抱いたんだ。
灯が健一の寝顔を見る。
ああ、この人、一緒に働いているときは分からなかったけれど、意外とまつ毛長いんだ。
そんな事を考えて彼女は、彼にそっとキスをした。
健一が起きる。
まるで・・・夢から覚めたように・・・。
「おはよう・・・。」
灯が言う。
健一ががばっと、起きる。
「今、何時?」
灯が携帯の時計を見る。
「AM4:30だけど・・・。」
健一は、灯の言葉を聞き、ほう・・・と胸をなでおろした。
「何?何か用事?」
灯が聞くと、健一は、ベットから出て、ソファーに座り、そして煙草に火を付けた。
それから、ふう・・・と煙草を吹かすと、ある一言を切り出した。
「灯・・・俺達別れよう・・・。」
「えっ?」
灯が答える。
「ど・・・どうして・・・!」
灯も、あまりの健一の言葉に裸でベットから出た。
「どうして!」
健一は、冷静に話した。
「俺は・・・灯。お前のことも好きだった。だから、昨日はお前を激しく抱いた。でも、やっぱり涼子の方がいいんだ。これからは俺は涼子と真面目に付き合う。だから灯。お前とは別れる。これは決めたことだ。」
健一が、灯の目を見て、真剣に語った。
やっぱり、昨日感じた違和感は・・・これだったんだ。
「私は?これから?どうしたらいいの?健一と別れて、これから、どうしたらいいの!?」
健一は、暫く何も言わなかった。そして一言。
「・・・帰ろう・・・。」
そう言って、シャワーを浴びに先に浴室に入ってしまった。
健一の気持ちは、固かった。
ホテルを出た二人は、それから手を繋がなかった。
ただ、黙々と歩いていた。
灯は、心から血の涙を流していた。
その気持ちを察したのか、JRの鶯谷駅で、健一は電車に乗らなかった。
「じゃあ・・・ここで・・・。灯元気で・・・。」
「健一・・・電話もダメなの?」
彼は、黙って首を振った。
山手線が、ホームに来た。
灯は、涙を流しながら電車に仕方なく乗った。
「健一・・・。」
「さよなら・・・灯・・・。」
ドアが閉まった。
灯は、健一の姿が見えなくなるまで、彼の姿を追った。
健一も泣いていた。
やがて、鶯谷駅が、小さくなっていった。
灯は、一目も気にせず、嗚咽した。
もう、完全に終わってしまった。
これから、私はどうしたらいいの・・・?
山手線は、日の出の出ている朝の空気の中を、ゆっくり走っていく。
一つの恋が終わった・・・。
灯、34歳の出来事であった。
第1章終了
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