第22話 発覚
みずほの忠告を受けてから健一は、あまり、灯を抱かなくなった。
灯は、健一の変わりように、戸惑っていた。
何故、最近2人っきりになっても私を抱いてくれないんだろう・・・。
何故か、健一が私から離れていくような気がしてならなかった。
健一、私を離さないで・・・。お願いだから。
灯は、健一と2人っきりの休憩の時に、神様に願っていた。
心では、泣いていた。
一方健一は、灯を抱きたくてしょうがなかった。
しかし、この間みずほに言われた、一言が頭にこびりついて、離れなかった。
『二兎を追う者は一兎をも得ず』
この意味は、2つ追いかけていると、1つも得られなくなるという意味だ。
健一は、灯も涼子も手放したくなかった。
そこで、健一は無い頭を一生懸命振り絞って考えた。
灯と涼子を天秤にかけて、やっぱり大切なのは涼子だなということに気付いたのだ。
これで、灯とはフェイドアウトしよう。
健一は、あと一回灯を抱いて、終わりにすることにしたのだ。
しかし、なかなかチャンスは訪れなかった。
あんなに、頻繁に灯と休憩が一緒で、二人きりだったのに、最近はそれが無い。
あったとしても、必ず誰か一緒にいた。
灯は、その度楽しそうに、談笑していた。
その姿は、自分のものでは無い灯を感じさせた。
健一は、段々とみずほにいわれたことを忘れていったのだ。
それが・・・健一と灯の間違いだったことに気付いたときは
もう手遅れであった。
それから、半年がたった。
5月になり、初夏を思わせるような気候になっていた。
「今日は熱いなあ。」
灯は、店のティッシュ配りをしながらそんなことを思っていた。
健一とは、あれから何もない。
占いダイヤルも続いて行った。
相談内容は、勿論健一のことだった。
占者は、もうすぐでいいことがおきますよ。と灯に伝えた。
しかし最近の灯は、半分信じてなかった。
もう・・・健一とは終わったのかな・・・。マンションにも来ないし・・・。
半分諦めかけていた、灯であった。
もう、こうなったら遊びでもいいから、彼が私の事を抱いてくれればいいのに・・・。
そう、思う灯であった。
しかし、
今日は、たまたま人数が少なかった。
敦が風邪を引いたのだ。
また、灯はティッシュ配りに、カウンターの接客。トイレ掃除、人数取りと目まぐるしく忙しかった。
また、今日は客が、いつもよりたくさん入った日であった。
そこで、灯と健一が休憩に入ったのは10:00過ぎであった。
2人っきりの休憩タイム。
半年ぶりだった。
健一は、灯が入ってきた途端に、激しく求めてきた。
30分休憩だったので、時間は長い。
「久しぶりだね。」
彼が言う。
灯は、とても幸せだった。
しかし、それが盲点だった。
健一は、インカムを外して、灯を求めていた。
だから、その後に幸太郎が、休憩に15分ごろ入ったことに気付かなかった。
しかし、幸太郎は休憩室に入ってこなかった。
それは、2人の声が聞こえてしまったから・・・。
何やってるんだ、この2人?
幸太郎が、休憩室の扉を開けようとしたときに、灯のよがる声が聞こえた。
彼は、恐ろしくなった。
そして、休憩室から離れると、一目散に2階の大友主任の所へ行った。
大友が、調子の悪い台を直していると幸太郎が来た。
「あれ、休憩に入ったんじゃ・・・。」
「大変です。大友主任。休憩どころの騒ぎじゃありませんよ!」
「何かあったの?」
「とにかく、来てください!早く!」
幸太郎と大友は、連れ立って休憩室の前に来た。
灯と健一のセックスはまだ、続いていた。
大友は、思い切ってドアを開けた。
「何やってるんだ!お前たちは!」
一瞬の出来事であった。
それから翌日
2人は、社長室に呼び出された。
初老で、少しきつめの顔をしたその男は、二人に言った。
「何故、私が君たちを呼んだか、大体分かっているな。」
灯と健一は、お互い何も言わなかった。
いや、言えなかったのだ。
灯は、顔から火が出るほど、恥ずかしかった。
社長が言う。
「この会社は、男女交際禁止だってことは分かってたよね?いや、100歩譲って、プライベートだったらとは思っていたが、まさか・・・休憩室でとはね・・・。大変なことをやらかしてくれたものだね。」
社長は苦々しく言った。
2人は黙って社長の話を聞いていた。
「とにかく、ほかの人たちに示しがつかないので、今日限りで辞めていただきます。」
2人に、出された罰は重かった。
社長は、更に言った。
「わたしは、君たちの事買ってたんだよ。仕事は出来るし、よく気はつくし・・・残念ですね・・・。」
社長はそう言うと、後ろを向いてしまった。
2人は、お世話になりました。というと、社長室を出た。
入れ替わりに、書類を届けに来た、瀬戸内が、灯と健一の方を見た。
瀬戸内は灯の方を向き、「ふんっ」と、言った。
灯は、瀬戸内が自分にやった事を、社長に最期に言いたかったが、もうすでに遅かった。
健一は、ずっと考えていた。
職を失ってしまった。
こうなって、初めて自分がなんて愚かしいことをしていたのかを、悟った。
こんなことなら、灯のマンションに行ってればよかった・・・。
これから、どうすればいい・・・。
灯と健一は、大友に挨拶に行った。
大友は、複雑な気持ちであった。
怒りと、せっかく育てた金の卵だったのに、という悔しさだけであった。
しかし大友は、大人であった。
灯がいう。
「いままで、お世話になりました。今さっき社長から、今日限りで・・・と言われました。」
健一は何も言わなかった。
今頃休憩室でも、ホールでもこの話題で持ち切りだろう。
大友は、二人に店に出ずに帰れと一言言った。
そして、それ以上何も言わずに去っていった。
灯は泣きそうだった。
何もかも、終わってしまった。
こんなとき、健一が支えてくれたらと思った。
彼女は、健一の腕にすがろうとした。
一人では、たっている事も出来ないほどだったからだ。
だが健一は、灯の腕を振り払った。
灯とさえ出逢わなければ、こんな事にはならなかったのに・・・
彼は俯き、灯の元から走り去った。
健一にも、この出来事は、背負いきれない出来事だったからだ。
灯は、その場に崩れた。
何故、健一は私の手を拒絶したの?
もう、終わりって事?
こんな簡単に終わってしまうものなの?
信頼を一度失うと、こんなにも取り返しがつかないものなの・・・?
健一とも、終わってしまった・・・。
灯は、今絶望の淵に居た。
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