第16話 啓介のストーキング

 「はい!?もう一度言ってくれる!?」

灯は健一に聞き直した。

「だから、俺の愛人になってくれないかなーと思って・・・。」

「愛人!?」

灯は呆れた。

「なんで、恋人じゃないのよ・・・。」

彼女は不満そうだ。

健一は答えた。

「だって、俺にはすでに恋人がいるんだぜ?そうなると、内田さんは愛人しかないじゃん。」

彼が、サラッと言う。

灯は思った。何ふざけたことを言ってるのこいつは?

「生田さん。悪ふざけもいい加減にしてよ。私はあくまでも、恋人が欲しいの!!終電近いからまた明日ね。」

そう言うと、灯は健一を置いて、走り去った。

健一は、雨の中彼女を見送った。


一方走って、終電車に飛び乗った、灯は、先程の健一の言葉を思い出し一人、驚いていた。

健一から、私に話しかけてくるなんて・・・。

灯は内心嬉しかった。

「でも、愛人とは・・・。」

灯は思わず口に出してしまった。

彼女の周りの人々が驚く。

灯は、思わず「すいません・・・。」と口に出した。

一体どういうつもりで愛人なんて、考え付いたんだろう・・・。

信じられない。

とにかく、健一に話しかけられるのは嬉しいが、そのことについては、徹底的に無視しよう。

灯を乗せた終電車は、滑るように家路を急いでいった。


その夜。

灯は、興奮してなかなか眠れなかった。

クッションが厚めのマットレスの上にピンクの布団を敷いて寝ている灯は、なかなか寝付けなかった。

暗めの部屋に、岩塩ランプの灯だけがともる。

灯が寝付けなくなって、AM2:00のこと。

部屋の外から、車の音がした。

聞き覚えのあるエンジン音だ。

灯は、薄紫の遮光カーテンを開けて、曇りガラスの窓も開けた。

啓介の車に似ている・・・。

彼女は、思わず窓を閉め、カーテンも閉めた。

嘘でしょ!!

灯は玄関の方に行くと、チェーンをロックした。

そして、武器にするものを探した。

そこで、彼女は一本の傘を目にした。

震える手で、傘を抱き締め、灯は奥の部屋で待機していた。

どうか、来ませんように!!来ませんように!!

灯は、祈る気持ちで傘を抱えた。

すると・・・

『ピンポーン』

誰かが来た!

灯は、出なかった。

もう一度『ピンポーン!』とチャイムが鳴る。

灯は、恐怖で倒れそうになった。

足ががくがくと震える。

ドアから声が聞こえた。

「いるんだろ。灯!なんで電話に出ないんだ?」

声がぼそぼそ話しているのに、あかりと呼ぶところだけ、声が大きくなる。

そして、ドアをどんどん叩く。

啓介の声だ。

間違いなく啓介の声だ!!

怖い!!助けて!!

そう思って居ると・・・。

隣の人が起きたのか、声が聞こえた。

「どうしたんですか?何時だと思っているんですか!?」

隣が、起きた!

灯は、隣の人の声が、天使の声に聞こえた。

「あ・・・すみません・・・。」

啓介の声がする。

「とにかく、警察呼びますよ!」

隣の住人と啓介が喋っている。声が小さくて、よく聞こえない。

啓介は、仕方なく帰って行った。

灯は、はあ・・・とため息をついた。

「怖かった・・・。」

彼女は怖くて、足が震えていた。

灯は、誰かに電話をしたかった。

怖くて怖くてどうしようも無かった。

「お願い!!誰か傍にいて!!」

灯は、スマホを取り出した。

そして、何処かに電話を掛け始めた。

『プルルルル。プルルルル』

つながった!!

『ガチャ』

「はい、生田です。」

「生田さん?」

灯が、震えた声で電話したのは、健一だった。

「内田さん?」

灯が、やっとの思いで、話し始める。

「わ・・・わたしの所に・・・けいすけが・・・いま・・・きて・・・怖い!怖い!」

灯は、自分の身体を抱き締めて、ブルブル震えながら電話をしていた。

「ドアを…どんどん・・・やって・・・」

灯は泣いていた。

友達の店にいた健一は、灯の言葉に一気に酔いが冷めた。

ただ事ではないような様子であった。

「分かった。今、行くから!大丈夫だから!どこに行けばいい?」

灯は、震える声で自分の住所を言った。

「わかった!今からタクシーで向かうから、鍵をしっかりかけて。俺が行くまで開けちゃだめだよ!」

そういって、健一は電話を切った。


数時間後、車が灯のマンションの前に停まった。

ぼそぼそと声がする。

灯は自分を抱き締め、なおも震えていた。


「ピンポーン!」

チャイムのなる音がする。

彼女は恐る恐る、震える声で玄関に向かって言った。

「どちら様ですか?」

「生田です。」

その声を聴いた途端、灯はチェーンを外し、ロックを解除して、ドアを開けた。

そこには、自分があんなにも憧れた、生田 健一がいた。

灯は、健一の胸に飛び込んだ。

「・・・こ・・・怖かった・・・。」

灯は泣き崩れた。

健一は、泣き崩れる灯を抱き締めた。

ドアは、静かにしまった。


灯は、なおも泣き続けた。

それを唇で覆う、健一。

灯も、キスをされるがままに、受け止めた。

「もう、大丈夫だから・・・。」

灯を抱き締め、布団で抱き寄せる健一。

灯は、やっと落ち着いてきたのか、段々と眠くなってきた。

「生田さん。私、落ち着いたら眠くなってきた・・・。」

「いいよ。ゆっくり、お休み。」


これが、健一と灯の愛人生活の始まりだった。
















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