第7話 揺れる心

 翌週。啓介が有楽町シオンに遊びに来た。

灯の彼氏が来てるということで、シオンではちょっとした話題になった。

彼は、地下のフロアのパチンコ台に座り、遊んでいた。

おりしも、その地下の担当は健一であった。

時々、彼と談笑する健一。

灯は、二人の男をカウンターから見ていた。

今、生田さんはどんな気持ちなんだろう・・・。

私の彼を見て。

最近、灯と健一は、いい感じであった。

灯曰く、休憩時間一緒だし。

良く会うし、偶然が多いし。

これは、もしかしたら運命の人かもしれない・・・。

と、かなりの恋愛の重傷であった。

私がこれだけ思っているんだから、生田さんも私の事を好きに決まっている!

勘違い女の始まりであった。

そんな、ハート目になっている彼女のことなど知っているのかいないのか、健一は地下のホールを見ていた。


灯がそんなことを思っていると・・・

「内田さん。人数取り行ってきて。」

大友主任がやってきた。

「人数取り行って来たら、休憩入っていいから。」

「了解しました。」

灯はカウンターから出ると、2人の姿を見ながら、階段を駆けていった。


人数取りとは、有楽町にあるパチンコ屋がどれだけお客さんが入っているか、調べるものである。

現在シオンの周りには約6店舗のパチンコ屋があり、それを調査してくるのだ。

本来は社員の役目だが、灯はもうシオンでは古株ということもあり、灯が全面的にそれをやっていた。

まず、シオンからだ。地下が1・・・2・・・

灯が丁寧に数えて、表に記入していく。

それから灯は階段を駆けあがり、1階の客の人数を記入する。

2階はスロットだ、

そこには、灯の後輩兼友達の松本 幸太郎がスロットの担当で立っていた。

「内田さん。人数取り?もうそんな時間か?」

「こうちゃん。今日は2階か。」

「内田さんの彼氏が来てるって、もっぱらの評判だよ。かなり出してるみたいだね。」

「うん。あの人、パチンコは強いから・・・。」

灯が伏し目がちにいう。

「でも、内田さん辛くない?今彼と想い人が、一緒の地下にいるんだから。」

幸太郎は、灯の裏事情を知っている、唯一の人だ。

「うん。耐えるよ。大丈夫。また電話するね。」

そう言うと灯は、人数を数えて、階段を降りて行った。


さて、次は、向かいのパチンコ屋だな・・・。

そう思って居た矢先・・・

「うっ!!」

突然、灯の目の前が真っ暗になり、彼女は外の電柱に手を付いた。

そして目が元に戻るまで、そのままでいた。

最近、こんなことが続いている。仕事のしすぎかなあ。

気が付けば灯は、6日勤務になっていた。

人出不足からの勤務であった。


「どうしたの?内田さん?」

気が付いて抱き起してくれたのは、早番の瀬戸内副主任であった。

彼は早番の仕事が終わって、帰るところであった。

「大丈夫?人数取り行ける?俺から大友主任に言っておこうか?」

太った体形。細い目をした彼は灯に話す。

灯は、少しふらふらだったが彼に言った。

「大丈夫です。行けます。本当に行けます。」

「本当?大丈夫?俺心配だなあ。」

灯の目は、段々と元へと戻り、正常になっていった。

「こんなことで、くじけるものか。負けるもんか。」

灯は立ち上がると、雪の降る中人数数えに走って行った。

その後ろ姿を、瀬戸内は、ねばつく視線で見つめていた。


「灯!」

彼女が仕事を終えて裏口から出ると、啓介が待っていた。

それを、他の従業員が冷やかす。

「そんなんじゃないってばー!」

灯が、真っ赤になって怒る。

すると・・・

「お疲れ様。」

健一が、やや怒った様に灯の前を通った。

怒らせた!?

灯が、焦る。

彼女が、健一の姿を目で追っていると・・・

「灯。」

啓介が、楽しそうに話す。

「車、パーキングに止めてあるから少しドライブしないか?戦利品もあるし。」

見ると、かなりのお金が入っていた。

「こんなに・・・?」

「これで、お台場までドライブしようよ。お腹も空いたし。」

「わかった。行こう。」

灯は、健一の先ほどの冷たい瞳が忘れられなかった。

しかし、啓介に私の気持ちを気取られてはいけない。

車内、彼が今日のパチンコの武勇伝を話しているときにも、彼女の心は落ち着かなかった。


お台場に行き、綺麗なレインボーブリッジを見ても、彼女の心は晴れなかった。

啓介とのいつものキスも、彼女には拷問にも思えた。

お台場の近くのファミレスに入った啓介と灯はステーキを注文した。

いつもなら大好きな肉に、舌鼓をうつ灯であったが、今日は違った。

食べられない。

先程の健一の冷たい目。そして、啓介を騙している自分がとても嫌だったからだ。

でも、こんなに嬉しそうな彼を見ていると、どうしても本当の気持ちを言えなかった。

「啓介は美味しそうに食べるね・・・。」

灯が呟く。

「何だよ、灯食べないの?」

啓介が食べながら呟く。そうだ、無理してでも食べなきゃ。私の気持ちが彼にばれてしまう。

灯はそう思いながら、ナイフとフォークで、ステーキを食べ始めた。


そして、灯の部屋で、2人は抱き合った。

攻める啓介。

よがる灯。

しかし、肝心のフェラの部分で・・・

「うっ!!」

灯はまた吐いてしまった。

「どうして・・・?」

なぜ、啓介の勃起したものをなめると、吐いてしまうのだろう・・・。

「まだ、胃炎が治ってないのかなあ。」

啓介が、灯のことをさすりながら、言った。

「ごめんね。啓介。」

灯は吐きながら涙を流した。

こんなに優しい人を騙すなんて・・・私は、私は、何て女なんだろう。

自分をこんなに、嫌になったことはなかった。

このままではいけない!

灯は、自分の幼馴染の香山 みずほに相談をすることにした。










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