第3話 その横顔が好き
「ねえねえ。やっぱり私の事見てるわ。」
そう言うのは、同じ仕事場で働くゲイの向井 敦だ。
灯が有楽町シオンに入ってまたまた1年が過ぎた。
その間に、多くの人員が入っては消えていった。
しかしそのおかげか、灯と健一は、アルバイトだけれども新人バイトを指導する立場の人間に変わっていた。
敦が狙っているのは、社員の的場 徹だ。
長身の彼は、スレンダーで仕事ができる男。
然し、遅刻ばかりするところがたまにきずであった。
灯は、カウンターでお金と交換する石を数えていた。
「ねえ!灯聞いてる!?」
「えっ!?ごめん。聞いてなかった。」
「だからあ。この間的場さんと1階のフロアで仕事して居たのね。そうしたら、彼って私のお尻ばかり見るのよ。あの人は絶対ゲイだわ。」
「そんな事ある分けないじゃない。確かに・・・彼は変な人だわ。毎日遅刻してくるんだもの。でも、平気な顔をしているのよね。」
「その根性は絶対ゲイだわ。私今度告白するわ。」
何を言ってるんだ敦は。密かに灯は思った。
敦はゲイだけど恋人がいない。
だから、的場 徹をゲイに仕立て上げてるみたいだ。
灯がそう思っていると、あるお客さんが、ランプを点灯させた。
「敦、ランプがついてる。」
「あ、やべ、行かなくちゃ。」
敦は、ランプを付けた客の元へ行き、接客を始めた。
隣のレーンは、生田 健一だった。
最近の灯の楽しみは彼の横顔を見ることだった。
入り仕立ての灯と健一の仲は、最悪だった。
何かあると喧嘩ばかりしていたからだ。
彼はその前にもパチンコ屋に居たみたいで、灯が先輩にも関わらず、同じホールに居ると、彼女を指導した。
勿論灯は此処にはこういうルールがあるのよ。と言っても彼は聞かない。
そこで、喧嘩になる。
然しそれをするたびに、新人さんが次々と辞めて行ってしまう。
灯と健一は考えた。
なので、休戦協定を結ぶことにしたのだ。
お互いの中には入らない。口を出さない。
そう言う取り決めにしたのだ。
健一は、他の常連客と話をしていた。
カウンターに居ると、隣のレーンもよく見える。
灯は、彼の横顔を見るのが好きだった。
吉谷 啓介とは相変わらずだった。
啓介は、両親のもとに挨拶に行かない・・・。
悲しみに暮れている灯の元に、藤田主任が来た。
「おー。何かにぎやかだな。」
藤田はカウンターに来ると、笑みを浮かべ、そう言った。
この藤田は、セクハラで有名な男だ。
セクハラが酷くて、みな女の子が辞めている。
「やべ、藤田だ」
敦は小さい声でそう言うと、灯の元から離れ、ホールの見回りに出た。
「灯ちゃん。今日も明るいね。元気だし。」
そう言いながら、藤田は灯のお尻に股間を押し付けてきた。
又だ、こいつ。
「そうですか。ありがとうございます。」
そう言いながら灯がお尻をずらすと、藤田は更に股間を押し付けてくる。
灯は泣きそうになった。
いま、灯が付けているマイクで、全ての人に「この人、セクハラ親父です!」と言ってやりたかった。
しかし、そんなことをしたら今までの苦労が水の泡になってしまう。
辛い!
そんな事を思いながら、ホールを見ると・・・。
健一がこちらの方を見ている。
それから健一はこちらの方に来ると、藤田にこういった。
「藤田主任。常連の橋本さんがお呼びです。」
「うん?そうか。すぐ行く。」
藤田は、灯のお尻から、股間を離すと、そそくさとホールに飛び出した。
健一は、ホールを見ながら灯に言った。
「・・・また、やられていたんだろ・・・?」
「えっ!?」
知ってた?
「ここは俺が見るから、敦には向こうを見てもらおう。いい加減内田さん。社長に言った方が良いよ。」
「うん。」
そう言うと、彼はインカムで敦とレーンを変わることを大友主任に声をかけた。
大友から、「了解しました。」と連絡が入る。
もしかして・・・かばってくれた?
灯は、何か嬉しかった。
それから、健一は、灯に楽しく話しかけてきた。
灯は何か嬉しかった。
この人とは、色々あったけどいまは、まともに話が出来る。
この有楽町シオンは、地下と1階にパチンコ台が置いてあり、2階にはスロット台が置かれている、遊技場スペースになっていた。
いま灯と健一は地下のスペースに居て、灯は、カウンターで一生懸命客が持って来た、パチンコのチケットと景品を交換していた。
「大が、20枚で小が5枚です。お後、56玉になります。」
ちなみに、大が1000円小が500円である。
「じゃあ、適当にお菓子を見繕って。」
「かしこまりました。」
灯は、お菓子を袋に入れると、POSからレシートを出して、
「大が20枚で小が5枚です。ありがとうございました。」
といって、お辞儀をした。
灯がお辞儀をすると、健一も「ありがとうございました!」と声をかけた。
時計は10:00を指していた。
灯は、今日生理であった。
お腹が痛くてしょうがなかった。
しかし、努めて平静を装っていた。
すると健一が話しかけてきた。
「具合の方は大丈夫なの・・・。」
「・・・何で知っているの・・・?」
「大体わかるよ。内田さん。今日客がいないときにしゃがんでばかりいたから、敦はあいつ1階の的場さんばかり気にしていたから、気が付かなかったみたいだけど。」
そうか、この人ずっと私の事見ていたのか。
灯は、少し恥ずかしくなった。まさか見破られていたとは。
彼女の生理の症状は重く、時にはめまいがするほどだった。
でもこんなことで仕事を休むわけにはいかなかった。
世の中には『生理休暇』等というものがあるみたいだが、灯とは無縁であった。
なにせ、シオンは人手不足だったからだ。
今日も沢山の客が、台に各々座っていた。
「とにかく、切れ痔にはきを付けた方が良いよ。」
健一が笑いながら言う。
「そうね。生田さんもいぼ痔には気を付けないと・・・。」
灯が、冗談返しをする。
「もう、俺沢山持っているもん。」
健一が笑いながら話し、「いらっしゃいませ。」と、カウンターに来た客に声をかけた。
灯が、POSを使って、チケットのバーコードを通す。
いつものように接客を開始する。
健一は、その間ずっとホールを見ていた。
灯はかつて、ここまで優しくされたことが無かった。
これは、新しい恋の予感?
わしっぱなの堀の深い顔をした生田 健一に、段々と惹かれていく灯。
しかし、それが、黒歴史の始まりだったことを、灯は知らなかった・・・。
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