第1章 第1話 出会い

「パチンコ屋で働く?」

灯の恋人 吉谷 啓介は、彼女の突拍子もない提案にびっくりした。

「そう。私この間のスロットで、1年間で30万トータルで負けちゃって。パチンコ屋なら、私も啓介も遊んでいるところだし、仕事としてはいいかなっと思ってね。」

「まあ・・・そうだけど。パチンコ屋って・・・思い切ったことを考えたな。」

啓介が、コーヒーを口にしながら話した。


内田 灯。この物語の主人公である。

彼女はどこにでもいる普通の30歳の女性であった。

おとなしく吉谷 啓介と婚約してればもしかしたら、彼女の人生は変わっていたかもしれない。

然し、これから出会う男性と出会ってしまったばかりに、灯の人生は全く別の方向に働いて行く・・・。


「じゃあ、啓介。私これから面接なんで。」

灯が、喫茶店の椅子から立ち上がった。

「ちょっと、待てよ。これからデートだろう?」

啓介が不満そうにつぶやく。

啓介は走り屋だ。

今日も愛車の黒のレビンを運転して、千葉からわざわざ灯の元に来たのだ。

「日曜日に何で面接入れるんだよ。」

「ごめんね、お金が入用だったもので早く働いてお金稼がなきゃ。家賃もあるし。」

自分の飲んだコーヒーのお金を置く灯。

「じゃあ。また電話するね。」

「灯!!」

何だよ。こっちは千葉から来てるんだぞ。

最近よそよそしいな灯。

お金まで置いてっちゃって。

そんな気持ちの啓介のことも知らず、灯は喫茶店を出た。


外は、太陽がさんさんと輝く初夏であった。

此処から電車で30分ほどで、目的地の日比谷までつく。

灯は、最近啓介のことがうっとうしかった。

付き合って4年にもなるが彼はある行動を起こさない。

いつまでたっても灯の親に挨拶に行かないのだ。

彼女が啓介の実家の袖ケ浦まで毎週の様に行ってはいるが、啓介の方は一向に動こうとしない。

そんなだから親に反対されるのよ。

若干、怒ったような気持ちで彼女は電車に乗って、日比谷に向かった。


それから半年たった。

あれから灯は、アルバイトとしてパチンコ屋の『有楽町シオン』で遅番の16:30~11:30まで働くことになった。

半年間。灯は必死になって働いた。

朝は、蕎麦屋のランチの仕事を4日。

夜はシオンで、遅番として5日間働いた。

週末は、袖ケ浦まで啓介の家に行く生活。

然し、灯は何か満たされない思いであった。


そんな灯に、転機が訪れた。

ある日、シオンに男性が入ってきた。

「今日から、皆と働く、『生田 健一』くんだ。皆仲良くしてくれ。

えらの張った顔。まあまあ整った顔立ち。少し鍛えている体格のいい感じ。

灯は思った。

ストライクゾーンじゃない。

新しい人が来ると思って期待していたんだけどなあ。

世の中こんなもんか。


健一も、思っていた、

可愛い子いねえなあ


これが、灯と、生田 健一との出会いであった。









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