35話 常盤と蘇芳と菖蒲

 うわぁぁぁぁん!!

「うわっ!」

「っ! アヤ!? 何があったの?」

「寝てたクセにきゅうに泣き出すなよ。どーした?」

「ときがねっ……くろい、ひっ……すおうがっ──うぇぇぇん!」

「怖いユメでも見た? もう大丈夫だよー」

「そうそう。ほらスオウが作った土のカタマリ見てやれよ」

「アヤ見てみてー。風術のれんしゅうで作ったんだよー。まんまるに作れるようになったんだよー」

「二つ並べるとだるまみたいだろ?」

「……ひっく。だる、ま?」

「そう土だるま。ほらスオウもう一つ作ってだるまにしてやれよ」

「そうだ、ねえアヤもいっしょにやってみよ。ほら、こうやって風をくるくる回して土を真ん中に、玉みたいにまん丸くするんだ。それでこれをだんだん小さく小さくしてって──」

「……」

「……」

「まる?」

「ぼうだな」

「まる……?」

「ぼうだな」

「──っ! 風術コントロールのくんれんで作ってるんだから! そんなかんたんにぽんぽん作れるわけないだろっ!? ──アヤ、最初はむずかしいからね。できなくても気にしなくていいんだよ」

「よっし俺が作る! んでだるまいくつ並べられるかキョーソウだっ!!」

「ちょっ! トキもやるの!? ってかズルい! 今何使おうとした?」

「まるまるだるま」

「だって土だけって決まりないだろー……ん???」

「えっ? ちょ、まってまっ! これっアヤ──!?」

「うわぁぁアヤやめろ止めろ! その大きさはゼッテーちがう! マジやめろぉぉぉ!!」






 ***

「……俺は行く」


 変わり果てた大地へ、無意識のように溢れた小さな声に、周囲の風がゆるりと動く。


「俺は、アヤの元へ行く。アヤに会いに。会えるかどうかなんて、いい。例えアヤ本人が望まなくても、俺の意思で、会いに行く」


 掌に乗せた空っぽの土だるまを見詰めて少年は囁く。その身体は既に、少女の温もりすら残さない。


「誰からの謗りを受けてもいい。だけど俺一人の力じゃ無理だ。俺には向こう側に行く力がない。こんなことを頼む資格なんてないのはわかってる。でもこれしか方法はない。だからお願いだ」


 少年の瞳に、声に、自らの進む道を決めた者の強靭な意思が宿る。


「お前の身に宿したその剣ゲートを開く鍵で、俺を向こうに行ける体に変えて送り出してくれ。今度こそアヤを取り戻す。お願いだ──トキ」

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土だるまと少年 ~風遣いの少年、付き纏われる~ 蒼生ひろ @aoi_hiro

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