17話 少女と邂逅と土だるま
報酬の受取を滞りなく行い懐が暖かくなった少年は、レグサスと別れた後、内心ほくほくしながら一人町の大衆食堂にやってきていた。ミッション数が稼げたのも良かったが、意外にも良かったのがあの黒色の蛇だか蜥蜴だかの報酬だ。
レグサスの言う通り黒い腕を切り取り、他と別にして窓口に提出してみた所、中身を確認した窓口の女性は無言で奥に持ち帰り、代わりにDランクミッションでは到底得られないような報酬と討伐ポイントを加算してくれた。
色々な意味でもう二度と出逢いたくはない相手だが、黒蛇様さまだ。しかしレグサスは何故あれが報酬対象となることを知っていたのか。
座る少年の腿に軽く何かがぶつかる。カウンターに座る少年はしれっと無視したが、それは二度三度と続いた。腰にぶら下げた布袋が揺れて当たっているのだ。布袋を振り回してやれば大人しくなるだろうか、それとも背中の荷袋に放り込んでやった方がいいかと考える少年の耳に、ふと周囲の言葉が飛び込んでくる。
「おい。どうやら黒援会がこの辺りに来てるらしいぜ」
「おいおい。誰に聞いたんだよそれ。本当かよ」
「東から来た客が見かけたらしいんだ。真っ黒な格好して武器持った奴らが五、六人ジーホにいたらしいぜ」
「ってことは何か。近くに黒の病にかかったヤツがいるってーことかよ」
「どうだろな。奴ら最近、奇形種討伐なんかもやってるってんだろ? 案外ホーシュ山にでも行くつもりなのかもなあ」
「だったらいいけど、あいつらも結局コクシだろ。この町に来て病原菌を巻き散らされちゃあ堪まんねえ」
何となく聞いていた少年の前に、湯気のたつ丼が勢いよく置かれる。カラッと揚げられた肉にとろりとかかる卵の黄色と、甘辛い匂いが少年の食欲をそそる。
育ち盛りの少年は、その瞬間頭にあった全てを放り出し、一心不乱に目の前の物を食べ始めた。
「まいどあり! 次はサービスしてやるからまた来いよ坊っちゃん」
店内からかけられた店主の大声に軽く頭を下げ、少年はひんやりとした外に出た。風が砂塵を連れて少年の足元を走り去る。
少年はぐるりと周囲を見回した後、枯草色の外套に深く身を沈めると、人々の行き交う道をやや早足で歩み始めた。今日は緑の第二祭日で天気も良いので、呼び込みや宿引きの声で辺りは賑やかだ。
それらの喧騒を避けるように横道に入り、閑散とした通りを抜けると、やや開けた空き地に出た。そこで立ち止まった少年は細く短く息を吐くと口を開いた。
「で? 俺に何か用ですか?」
意図的に強めた声が、誰もいない広い空間に響き渡る。しかし次の瞬間、少年の声に応えるかのように、空き地の入口に突如少女の姿が現れた。少年は入口に背を向けているためその光景を目にすることはない。だが彼の口端が僅かに上がった。
「ストーカーのようにつけられるの、いい気がしないんですよ。さっさと要件伺えますか?」
そして少年は振り返り、見る。褐色の肌に黒髪を持つ少女の姿を。
少女の姿を映した少年の目が限界まで開かれ、口からはくりと苦しげな息が漏れる。
その口から、吐息と共に名が漏れる。記憶に沈んだ少女の名が。
「っ──────アヤ」
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