3章
16話 帰還と水と土だるま
△月○日 晴れ時々雨
泉手前で現れた男により、その後の行程は順調に進行。
帰りは計一二体の奇形種と遭遇。特性は後述。最終的に黒蝕確認は一体のみ。
土人形の黒蝕、未確認。詳細不明。
俺達はザニザニの街に無事帰還した。正直満身創痍だが、まずは連盟窓口に向かう。苦労して取ってきた物を、時間差で報酬対象から外されたらかなわないからな。
疲れた足取りで歩を進める俺と違い、前を歩く少年の歩みは軽い。胸部打撲していると思うんだが、肋骨骨折までは心配しなくても大丈夫か。俺は、今立ち止まったら動けなくなる自信がある。
助けてくれた奴とは街に到着したと同時に別れたから、今ここにいるのは二人と一体だけだ。
いや、一匹か?
少年の抱える荷袋の一つががさがさと音をたてる。ちょい前までは大人しかった所を鑑みるに、同行者が減るのを見計らってたのか。知能と理性も有りっと。
荷袋には報酬対象となる死骸やら何やら放り込まれてたから、一緒に放り込まれた方としては堪ったもんじゃねぇだろうなぁ。よく我慢したわ。
「──なあ、ショウブ少年」
「レグサスさん、報酬は不要だとおっしゃってましたが、まだ同行をご希望ですか?」
かぶせるような発言に、胸部に感じた苦痛を逃すかのように吐息をつく。
「まあね。連盟にコンプリート報告するまでと前にも言った通りだ。もう少しだけ同行させてくれ」
「顔色が宜しくないようですが」
「固定はしているから問題ない。ショウブこそ横着せずに後で医師に診てもらった方がいいぞ? ……んでさ少年」
「何でしょう?」
振り向きもしない細い背に目をやる。正確には上へ下へと揺れまくる荷袋に。
「……それ、めちゃめちゃ怒ってるんじゃないか?」
思い浮かぶのは泉での光景。水を汲むための容器を取り出した少年は、それを左脇に抱え、ついでとばかりに右手で土だるまをむんずと掴むと──泉の中に放り投げた。
宙にきれいな放物線が描かれた後、ぽしゃんという音と共に、水面を小さな波紋が広がる。
少年は容器を両手に抱え直すと水中に降ろし、いそいそと水汲みを始めた。
ぴぴぴっちちっ
こぽこぽこぽ
鳥の鳴き声と水の音が鳴る。しばらく静かな時が流れる。そして
──さばぁ!!!
「────身に覚えはありませんね」
「いやあれよ。あろうよ。覚えてやろうよ! 水だるまじゃなくて今素で間違えたけど土だるま君、土ってより泥だるまになってたよな。水から自力で飛び戻ってきたけど、凄く身体重そうだったよな? 呆然と見てた俺が言えたことじゃないけどさ、あれ放置してたらそのまま沈むか溶け崩れるかしたんじゃない!?」
「さあ。これは特殊で、俺の意図とは別に自立して動くんで。俺にもどうなるのかさっぱりわかりません」
「何か聞いたことある台詞使い回してるけど、君土だるま君の解呪目的であって遺棄したいんじゃないよね? 遺棄ってより、投擲というかもう殺害実行未遂と言っても過言でないような遣り口だったけど」
「解呪目的なんて俺言いました?」
「言って……! ……な、い、かぁ!? そういや、明言されてないかも! うわぁ少年性格悪い。ショック!」
「そんなこと言われたことないですけどね」
「はー。もうさー。土だるま君いらないなら、俺にくれよ。好奇心が溢れでて今もその荷袋広げて抱え上げて溶け具合と乾燥速度ともしかしたら形の変容があるかもしれないからサイズと容積の確認をっ! したいんだ!」
少年がふと立ち止まり振り向いた。
「レグサスさん、息切れしてますよ。傷が痛むなら本当に無理をしてついてこない方がいいと思いますが」
「……」
荒い息と米神を伝う脂汗を自覚しながら、無理矢理口の端を上げ、大人しくなった荷袋を軽く叩いてやる。
「舐めんなよ。これでもそれなりに経験値あるんだ。まだイケる。な、土だるま君」
「レグサスさん、ちなみにそっちの中身は全て戦利品です」
「……」
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