第113話:一欠片の後日談-Ⅱ


「そっか・・・・・・よくわかったよ」


ここまで来たら、逃げるわけにはいかないだろう。

律羽がここまでの覚悟を持って告白してくれたのだ、今ここで返事を出せないようでは男じゃない。


もうとっくに答えは出ているはずだ。


後はこの胸の鼓動に従って言葉を紡ぐだけ。


「俺もきっと、初めてお前に会った時から惚れてたんだろうな」


「・・・・・・えっ?」


「苦労かけるかもしれないけど頼むな。じゃ、そういうことで」


「ちょ、ちょっと待ちなさい!!」


エアリアルを使用したかと錯覚するほどの速度で回り込んだ律羽は、さらっと流そうとした連也の行動が看過できなかったようだ。

無論、本気でこれだけで終わらせるつもりはなかったが、少しからかい過ぎたかもしれない。


「そ、それは・・・・・・わ、私のことを好きということかしら?」


「ああ、愛してるぜ律羽。これからよろしくな」


「あ、あいっ、何を・・・・・・!!」


ぶわっと顔を真っ赤にした律羽を見て、真面目な癖に照れ屋な所もいいんだよなぁなどと呑気に分析をする。

復讐で散々、綱渡りをしてきたせいか心臓だけは鍛えられたらしい。

夜の学校に忍び込むのに比べれば心臓は高鳴れど言い淀む程の試練ではない。


「一緒に背負ってくれるんだろ?」


本来ならば他人に自分の罪を背負わせることなど許されない。

しかし、彼女はそれを自ら望み、自分の人生として定義づけた。



裁かれずとも人を殺すのは誰であろうと悪だ。



だからこそ、連也が天空都市の為に生きるのは気持ちとは別に義務となった。

殺めた命以上の人々を救う為に、連也はこれから先に苦しいことも辛いことも乗り越えていかねばならないのだ。



これが、この復讐の顛末だ。



三人は死に、一人は生きた。



動揺冷めやらぬ律羽と別れ、連也が予定変更してやってきたのはここまで協力してくれた景教官の部屋だった。

事後処理にも大いに尽力してくれた尊敬すべき教官ともしっかりと話をしておきたかったからだ。


「終わったんだな、つっても最期まで連也に任せちまった」


「それは俺が望んだことだ。景がいなかったら最初の北尾への復讐すら成功しなかっただろうしな。感謝してるよ」


「それで、これからどうすんだ?」


長い足を組んでソファーに身を落ち着けた景は連也へと質問を投げる。

保護者のようだった立ち位置の景からすれば、連也の未来が気になるのは当然のことであると言えた。

復讐者である連也が復讐を終えれば何も残らない、ずっと景は懸念していた。


だが、もう答えはとっくに決まっている。


「天空都市で一番の騎士になる。誰であろうと人を殺したことに変わりはない。その分まで天空都市を平和な場所にしてやろうと思ってる」


復讐を終えた苦さに混じるのは、昔に感じた空への憧れだ。

人々に手を差し伸べられる強さを持った人間に、立派な騎士になりたい。

復讐に後悔はしていなくとも、命を背負うとは前に進むことだ。


「そっか、頑張れ。お前ならなれるよ」


くしゃりと久々に頭を撫でられて、不覚にも熱いものが目を濡らそうとする。

景はずっと見捨てずに力を貸しながら、常に連也の幸福だけを考えてくれていたことはよくわかっているのだ。

ここまで想ってくれる人間がいるということが本当に嬉しかった。


だから・・・・・・。


「これからも、ご指導・・・・・・よろしくお願い、します」


涙と共に震える声で、初めてかもしれない年上への敬意と感謝を込めて頭を下げた。

思えば涙を流したのもあの日以来かもしれないと自分の心の一部が解放されたことを自覚する。


ただ、家族がまだここにいるようで溢れる気持ちを抑え切れなかった。


「お前は俺の生徒で、弟みてーなもんだ。頑張って立派な騎士になれよ」


そう温かい言葉を残して、景はようやく仕事へと戻って行った。

皆が死んだ事は世界が崩落したかと思わせる衝撃だったが、景だけでも生きていてくれてどんなに救われたか。

感謝を胸に最後の場所へと向かうことにする。


無論、場所は少女と出会った図書館だ。



「連也さん、遊びに来てくれたんですね。あれ、授業中じゃないんですか?」


「普段は真面目に受けてるし、色々と積もる話もあるだろ?」


「それはそうですけど・・・・・・特にルインが」


図書館には主が何故か一人だけ増えていた。

あの日に連也に協力したルインと名乗った銀髪の天使型は未だに天空都市に居座っているようだった。


「お前、そろそろ帰った方がいいんじゃないのか?って家があるのか知らんけど」


「失礼ね、お前。何名かで纏まって浮島の奥で生活しているから家はあるわ」


天使型の思わぬ生体が明らかになったが、思えば元は人間だった種族なので同じ存在がいれば共存も出来るだろう。

そして、上手く行けば人間とも共存可能であることが明確になったが、動力炉の件もあるので中々に信用は得られない。


「お前が契約を破らないか監視するわ。動力炉の仲間も救う手立てを早く考えて」


「わかってるよ。約束を破るつもりはない・・・・・・って、ルインは獣災の探知には引っ掛からないんだな」


「内側に入ってしまえば、そんなものは私には通じないわ。人間として擬態することが可能」


光璃も出来ていたことだし、ルインも同じことが出来ても不思議ではない。

ルインは本当によく戦ってくれたので、約束を破るつもりはないし手立ては講じるつもりでいる。

動力にされている仲間は倫理感的には今すぐ助け出したいが、その為に何万人を殺すのは不憫だと思い直したらしい。

まだ、動力になった少女は余力を残しているのも大きかった。

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