第109話:最後の交戦
勝つ為に鏑木に烈から受け継いだ刃を何度でも叩き付ける。
ゲオルギウスとエル・ラピスを同時に操るのは肉体的にも負担が大きく、体にわずかな痺れが広がっていく。
このまま長時間を突き進めば、致命的な欠陥になってもおかしくはない。
「君はこの都市が好きなのかな、芦原君」
「当たり前だろ、この街には・・・・・・大切なものがあるんだよ」
ここには鏑木によってもたらされた多くの死があった。
しかし、烈や葵と一緒に自分を磨く為に空を駆け続けた思い出も、連也にとってはかけがえのない大切な記憶だった。
死んだ家族や景だって優しかったし、連也に愛情を持って接してくれた。
だからこそ、それらを全て奪った鏑木達が絶対に許せなかったのだ。
それでも、ここにはたくさんの大切なものがある。
律羽はもちろん光璃に岬、琴音や他のクラスメート。
復讐の為に戻ってきたはずの天空都市で色々なものを得たのだと改めて実感しながら諦め悪く飛翔し続ける。
「そうか・・・・・・私もそうなのかもしれないな」
天空都市には興味深いものが多いという意味で言ったのかもしれない。
この男の歩みには常に好奇心が付き纏っている、悪く言えば異常者だ。
しかし、もしかしたら鏑木にも天空都市に対する一かけらの愛情があったのかもしれないとも思う。
烈を殺したことを許す気はないし、鏑木は絶対的な悪だ。
その反面、彼が天空都市を沈めまいと決断したのもまた事実なのだ。
この戦いもどこか連也と律羽の答えを期待するように相対する鏑木を眺めて、そんなことを考えてしまう。
「今更になって、天空都市を愛していたとでも言うつもりかよ?」
「さあ、どうだろうね。少なくとも同情は無用だよ」
鏑木が振るう腕に吹き飛ばされながら、連也は体勢を立て直す。
やはり天使型の力は伊達ではなく、緩衝膜を完成させるきっかけとなったという防御力は連也だけではまず破れない。
確実に勝敗を決める時の為に律羽は機を伺って前には出てこない。
二人で連続して叩いても、防御に徹した鏑木には結果は同じだ。
それならば、律羽の持つ最大の破壊力を持つ一撃を炸裂させるしか確実に打倒する方法はないだろう。
命を奪う奪わないに関わらず、鏑木を止めるのは必要不可欠だと判断して彼女も全力で手を貸してくれている。
「さて、ただ待つのも退屈だ。君達を試すとしよう」
律羽が最大の一撃を放つのをただ待っているほど敵は甘くはない。
まるでエアリアルを全開で起動したかのように鏑木の全身が宙へと跳ね、最初に標的と定めたのは律羽だ。
連也の反応が明確に遅れる程に、鏑木の速度はエアリアルで追い切れない領域へと達していた。
「・・・・・・・・・ッ!!」
それでも律羽は一撃を躱すと、
相手が自分よりも速かろうと技術と発想力で瞬時に対応する、まさしく彼女は月並みな言葉ではあるが天才と評するべきだった。
「君は今後の天空都市を背負っていく才能がある。私からも賞賛しよう」
振り上げた右腕は今まで以上の速度で放たれ、激しい余波が周囲へと広がる。
その余波は瞬時に律羽を覆う緩衝膜に亀裂を入れると、彼女の体勢を崩してエアリアルの操作すらままならない状態へ追い込んだ。
緩衝膜とは周囲の大気や衝撃に耐える為に構築される防壁だ。
それに亀裂が入れば、すぐに再構築できるとはいえ瞬間的に体勢を立て直すのは不可能に近かった。
一撃でここまでの破壊を生み出せるのは、まさしく人を超えた存在の所業だ。
「・・・・・・えっ?」
だが、足掻く律羽の足が何か固い物に触れる。
律羽にもう一撃加えようと迫る鏑木に向けて、彼女は中空を踏み締めて手にするエアリアル・アームへと出力を注ぎ込む。
「何・・・・・・?」
さすがの鏑木も眉を潜める間に振るわれたアイオロスの刃は、鏑木が動揺した隙を突いて左肩から真下に両断していた。
止めを刺し切れなかったのは彼女が鏑木を簡単に殺せない証明だった。
無論、そんな重い役割を彼女に任せる気はなかったのでこれでいい。
「成程、芦原くんのエアリエル・アームか」
鏑木は傷を二度まで受けたにも関わらず、何事もないように二人を眺める。
律羽がエアリアルの制御を見失って落下しかけた時に、足場となったのはゲオルギウスが凝固させた空間だった。
足場があれば、体勢を立て直した後に緩衝膜を再展開する方だけにリソースを割くことができる。
これで驚異的な破壊力を持つ鏑木の一撃にも対抗する手段を得たわけだ。
「また、助けられたみたいね。一発で防御を破られるのは想定外だったわ」
「俺もあそこまでとは思ってなかった。仕方ないだろ」
「・・・・・・毎回、あなたには助けられっぱなしね」
「気にするなよ。これから一生、支え合って行くんだろ?」
「・・・・・・えっ、な、はぁっ!?」
激しく動揺する律羽に対して笑みを返すと、連也は再び鏑木に対峙する。
彼女の欠点として少し硬くなりすぎる所があるので、こうしてたまに力を抜いてやった方が力を発揮できる。
力自体が飛び抜けているので大きな影響はないが、鏑木程の相手になるとわずかな隙が命取りになりかねない。
「・・・・・・まあ、いいわ。その話は後でしましょう」
意外に律羽はこういう時の切り替えは早いので、少し動揺させたぐらいではそれ自体は隙にはなりにくい。
「さあ、決着をつけようか」
待ち受ける最後の敵を前に連也は律羽へと勝つ為の手段を囁く。
これが最後の攻防になるであろうことは三人共に理解していた。
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