第99話:秘策
脱出を図るにはまずは情報が必要だった。
中からは出られなくても、外からの侵入は容易いだろう。
鏑木一派の突入までの時間は長くても二日程度と考えられ、水や食料は十分だが問題は律羽をどうするかだ。
このままにしておくわけにもいかないし、この施設内に置いてある燃料を補充されれば彼女は敵に回りかねない。
だが、鏑木を一緒に殺そうと言って仲間になってくれるとも思えない。
「どうしたもんかな……」
「律羽のこと?わたしは素直に相談しちゃえばいいと思うけどなぁ」
「だから、それは―――」
簡単に出来ないと言おうとした時、少し離れた場所から低い駆動音がした。
動力炉の駆動音に紛れがちだが、間違いなくエアリアルの聞き慣れた音だった。
鏑木の送った刺客かもしれないと身構えたが、現れたのは先程にエアリアルの燃料を奪ったはずの律羽だった。
「……入口を閉じられたのね?」
彼女も自分が利用されたことは解っているだろうに、気丈に顔を上げて二人へと問いかける。
連也にも裏切られたと感じてるだろうに、心から尊敬すべき精神力だ。
どうやら周辺を掘り返した末、移動用の汎用エアリアルを装着して急いで追ってきたらしい。
奪ってみて分かったが、アイオロスの使っている燃料は相当に質がいい。
燃料の種類によっても燃焼効率は変化し、出力が凄まじいアイオロスは一瞬でエネルギーを多く生み出せる高品質の燃料が必要なのだろう。
さすがにそこまで念入りに備えは用意はされていない。
「わかっただろ、鏑木はお前のことも道具だとしか思ってない。お前を襲ったのも鏑木の指示かもしれないんだぞ」
「ええ、そうでしょうね。この期に及んであなたが嘘を吐くとも思えないから」
ここを出た後に二人がどこに行こうとしているのかも知ったはずだ。
そのはずなのに、彼女から出た言葉は意外なものだった。
「脱出する為に協力しましょう。その代わり、私も鏑木理事長の所まで一緒に行って話を聞くわ」
連也の言葉をを信じた律羽が提案したのは、協力関係を保つ為の一時的な妥協案でしかない。
復讐の完遂を誓う連也は事態がここまで進んだ上で鏑木の前に立てば、行動を起こすだろうが彼女が許すまい。
そうだとしても、今ここで邪魔されるよりは余程マシな状況だ。
それに律羽をここには置いておけば、鏑木の兵士は律羽を殺そうとするだろう。
「わかった、協力しよう」
「わたしも律羽と戦いたくないからさ。良かった、何とかなって!!」
ようやく、三人の間には和やかな空気が満ち始めている。
それでも律羽の方は二人に聞きたいことが山ほどあるはずだった。
三人はまずは食料とエアリアルの燃料を探しに歩き始めるが、この地下組織は思った以上に広大だ。
「動力炉の原理が秘匿されていたわけね。こんなものが知れたら天空都市は大荒れになるわ」
「天空都市が襲われるのも天使型が内部にいるからだそうだ」
「そうなると、どうして天空都市が創られたのかが気になるわね」
「人を閉じ込めた島だったーみたいな話は聞いた事あるけどねぇ」
乾パン・干物のような緊急時の食料や水はすぐに見つかり、無事にエアリアルの燃料も補充できた。
中を調査してみても動力炉に関する資料ばかりで大きな進展はない。
脱出経路は入って来た道ともう一箇所あるが、どちらもエアリアルを想定して内から強固に固められて中からは出られない。
地中深くにあるので天井をぶち抜けないし、そんなことをすれば動力炉が埋まって一巻の終わりだ。
「完全にお手上げね……」
「いや、そうでもないぞ。この場所を外部に伝える方法さえあれば何とかなる」
「外部に使えるって……外に仲間でもいるの?」
「まあな、敵の本拠地化も知れない場所に来るのに備えくらいするだろ」
一つだけ、ここから脱出をする術がある。
景をここに直接招くことは出来ないので遠回りな方法にはなる。
ここに来る前に残してきたた手紙はきっと届いているはずだから。
「明日の朝、外にこいつを届ける手段を探す」
探索してみて、連也は脱出手段を思い付いていた。
しかし、その為には律羽のアイオロスの力がどうしても必要になってくる。
手にしたのは、ルインから受け取ったガラスめいた美しい羽。
「……まさか、連也」
「ああ、こいつは目印だ。俺達が破るのに失敗した扉は緩衝膜の原理を利用して内側からの攻撃を防いでる。だけど、内と外で同時に攻撃したらどうだ?」
鑑賞膜とは片方から発生させた障壁で、外側からの攻撃を遮断する仕組みだ。
その原理を逆手に取って、既に脱出手段は講じてある。
連也は事前に景に連絡を取り、光璃には手紙を残してきた。
連也を信じると言ってくれた光璃に頼んだのは、一日経っても戻らなければルインを天空都市付近に呼ぶこと。
景に頼んだのは光璃が外へ出る為の手助けをすることだ。
天使型は付近に寄れば同士の気配が把握できるが、地中深くでは具体的な位置までは断定できない。
故に、必要なのは明確な内部からの場所を示す目印だ。
「この空間の性質上、小さかろうと外から空気を取り込んでるはずだ。それに動力炉にはエアリアルの原理も使ってるから余計にな」
「それを探して、外にいる芦原くんの仲間に知らせるということね」
「ああ、最初は排気か何かに乗せるつもりだったが……律羽が協力してくれるなら確実だ」
羽を使ってルインを呼ぶ、それがこの状況で見える活路だ。
問題はその前に鏑木が行動を起こさないかと、景質の行動が露見しないかどうか。
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