第95話:二つ目の完遂

「お前も北尾もそうだよ。この期に及んで言いくるめられると思ってる辺りがお気楽なもんだよな。俺はお前らを殺しに来てるんだぜ」


未だに嘘を交えた説得で連也が納得すると思っている方が異常だろう。

連也とて、心から悔いる人間を何も悩まずに殺せる程に感情を捨ててはいない。

だが、この人間の心を持たない者は嘘で全てを乗り越えられると思っている。


「良かったよ、お前らが俺の思い通りに腐ってくれて。おかげで何の感傷もなく命を奪える。本当に助けるか迷うつもりだったんだぜ、お前らが心から悔いるならな」


最後に寂しそうに笑うのも刹那の間、ゲオルギウスの腕が握り締められて石動を拘束する。

苦悶に顔を歪めるが、北尾と違って石動は死を前にしても取り乱しはしなかった。

自身の必要性を解くことで思い留まらせようとしたのか、その表情は自分の死を受け入れてはいない。


「私を殺せば、必ず天空都市は未来の可能性を失うでしょう」


「人造獣災のことか?あれが絶対に必要なものだとは思わないけどな」


「必要になるからこそ、私は研究を続けてきたのです。天空都市が浮遊し続けるのは、転落する危険性を帯びた動作なのですから」


北尾が語った内容には天空都市の秘密までは含まれていなかった。

金と欲望で動く北尾は英雄暗殺の首謀者達の中では、そこまで信頼されていなかったのかもしれない。


ここで石動を殺せば、天空都市の情報を得る機会は失われるかもしれない。


首謀者の鏑木が簡単に秘密を吐くとは思えないし、英雄の後継者候補である架橋はそこまで知っているかも不明だ。

さあ、復讐をここで秘密ごと握り潰して完遂するべきか。

頭の切れる石動を監禁した所で負うリスクの方が多く、正体を知られた今は殺すしかないのだ。


「それで俺達と交渉するつもりか?情報を得る手段は幾らでもあるんだよ。それよりも答えろ、場合によっては少し永らえるかもしれない。なぜ、律羽を狙った?」


「天空都市は一人の英雄に依存するべきではありません。彼女は唯一無二の英雄になる素質を持っている。それも、子供のような正義を掲げる厄介な存在になるでしょう」


「それの何が悪いんだ?お前らには解らないだろうがな」


「貴方にこそ、解らないでしょう。人々を戦場に駆り立てる彼女こそが、最大の悪になるといつか貴方も知るはずです。天空都市には大勢の騎士が存在しなければならない」


石動の言っていることは単なる善悪論ではないことは何となく理解できる。

この女が考えている理論は天空都市が浮く謎に直結するのかもしれない。

だが、自分の安全が確保されるまでは情報を渡さないだろう。

情報の代償に復讐が完遂されないのなら真実をここで全て得る必要はない。


これ以上の情報が望めないというのなら・・・・・・もういい。


「話すことはそれだけか?終わりなら、お前には死んでもらう」


「・・・・・・氷上烈も生きていてはならなかった。その理由を貴方が知る時には私と同じく命を落としているでしょう。鏑木理事長は・・・・・・そう甘い男ではありませんよ」


「俺からするとお前の方が生きていてはならない存在だ。葵は見なくていい」


彼女には人を殺す光景は刺激は強かろうと声を掛けると、ゲオルギウスの腕は容赦なく石動を締め上げる。

その時になって石動は奇妙な笑みを溢す。

愉快で仕方がないと言うように、どんな心境で漏らしたものなのか最後まで解らなかった笑みと共に告げる。


「いい、でしょう。天空都市、の・・・・・・動力炉の場所は―――」


その表情はようやく死を覚悟して見開かれた目と相まって凄まじいものだった。

だから、何故今になってそれを伝えたのかは全く理解できない。


それでも、理解できなくても実行するしかなかった。




「さようなら、石動教官。あんたは実に有能な教官だった。最後に情報提供には感謝するよ」



容赦なくエアリアルの出力はその首の骨をへし折っていた。



最後に奇妙な様子を見せたが、取り乱しはしなかった石動に気味の悪さを覚えつつも第二の復讐は完遂されたのだ。

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