第92話:復讐決行
「身を護るには協力者が必要か・・・・・・」
こちらには無理にでも協力させられる弱みを握る架橋昴がいるとしても、北尾の異様な死に方を見ると強力なエアリアルを所持している可能性もある。
いざとなれば鏑木理事長が騎士達を動かしてくれるだろうが、敵の姿が見えない現段階では動かせる駒も少ない。
月崎律羽が動かせれば良いが、聡明で正義感の強い彼女を味方に引き込のはリスクが高いだろう。
ならば、その次を当たってみるしかない。
「あの子なら、いい関係が築けそうだから」
己の計画を邪魔されない為に石動は策を巡らせる。
復讐者が狙ってくるのなら逆に捕らえ、場合によっては始末する必要も出て来る。
使えるものは出来るだけ使う、それが彼女の主義だった。
崇高なる研究を阻む権利は誰にもありはしない。
彼女は強い決意と共に立ち上がると研究室へ向かうのだった。
―――さあ、新たな復讐を始めよう。
情報は出揃い、機は熟せば後は実行するしかない。
ついに復讐決行の日を迎えた連也は部屋の電気を消して時を待った。
今回は葵も連れて行くが彼女の役割は研究所内の監視と周囲の人間の無力化であって手を汚させる気はない。
以前に寮を抜け出した時のように葵と二人でこっそりと目的地へと向かう。
未だに動力炉の場所はわからないが、彼女が行きそうな場所だけは理解できた。
景から得た情報に加えて学校に忍び込んだ時に頭に叩き込んだ人造獣災の論文には研究条件も記載されていたのだ。
それらを総合すれば自ずと場所も判明して二人が向かったのは、学園からそう遠くない人工河川だった。
天空都市の機械だろうと工業用水は大量に必要になってくるので、予測されたポイントはやはりと言うか水辺だ。
川とは別に排水用の用水路もあるのでそこの付近だと最初から睨んでいた。
ちなみに排水を流すのは周囲の反応がないかを確認した上で雨に紛れて海等に落としているらしい。
「やっぱりここだよな。入り口にセンサーくらいは着いてるだろうな」
「うん、露骨に怪しいもんね・・・・・・」
人工河川は靴が埋まる程度の丈の草が生えた川沿いにあった。
幅は数十メートル、何箇所かには橋が掛けられているのが見えて人の通行も想定しているようだ。
その先には広大な森、そこには木々に隠れて小さな木造りの小屋が立っていた。
一見すると管理人が住まう小屋のようで入り口には鍵がかかっているが、地面をライトで照らして見れば真新しい足跡が幾つか残っている。
やはり情報通りに地下に研究所があるに違いなかった。
最近の学園からは早めに仕事を切り上げて帰宅しているようだが、どのようにしてか姿を消すので追い切れなかったのだ。
だが、ようやく石動教官の居場所を突き止めた。
ここを突破しないで地下に向かう方法を探せば果てしない時間がかかるかもしれないので正面から挑むしか手立てはない。
小さな窓をゲオルギウスで握り潰して、内側へと布で顔を隠して侵入する。
この段階でバレている可能性もあるので迅速に地下へと向かわなければならない。
固定されたカーペットを捲るとやはりと言うか、大きな鉄の扉があって壁にはよく見ればカードキーのようなものを翳す場所があった。
これだけのものを作るということはとんでもない事実がこの下には隠されている可能性が高くなってきた。
「さて、行くぞ葵」
「おっけー、あんまり張り切ることでもないんだろうけど頑張る!!」
二人のエアリアル・アームが起動して鉄の扉ですら容易く破壊する。
その下へと続く階段をエアリアルを併用して一瞬で駆け抜ける。
肌を刺す地下特有の冷たい空気を感じながら穴の底へと二人は近付いていく。
復讐すべき相手に確実に近付いているだろうと確信はあったが、そう容易く通してくれる相手でもないだろう。
案の定、階段を抜けた先には大量の番犬が待ち構えていた。
鋼の全身に赤く燃える瞳は最初に律羽と会った日に見たものとは形状は異なるが同種であろうことは明白だった。
やはり律羽を襲わせたのは実験体で今回は完成度を高めて防衛に使ってきたのだ。
しかし、この人造獣災の出現で石動がここにいることは確実で、前に進むべき理由は確固たるものとなった。
「じゃ、ここは任せて行っちゃってよ」
「いいのか?エアリアル・アームは使えないぞ」
「だいじょーぶ。わたしを誰だと思ってんの?」
葵は自信に満ちた声と共に連也を促す。
確かにここで時間を使えば石動に逃げられるかもしれないし、ここで失敗すれば次の機会は更に難易度が跳ね上がるだろう。
北尾の事件で警戒はしていたかもしれないが、今日までは確信もなかったはずだ。
「わかった、任せるぞ。お前なら出来るだろ」
葵もまた英雄の弟子であり、その力量は連也も十分に認める所だった。
彼女に雑兵の相手は任せて次のエリアに向かう入口に向けて走り抜ける。
ここで必ず石動教官を殺害する、命乞いしようが絶対に逃がすつもりはなかった。
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