第89話:堕天の誘い
辿り着いたのは以前に任務で出向いたような浮島が大量に浮かぶ場所だ。
浮島とは雲の上にある島で、天空都市が開発される際に参考にされた場所だとか聞いている自然現象である。
簡易的な飛空艇では限度はあるが高度を上げて、そこから三人はエアリアルを纏って浮島の一つに降り立った。
「光璃、わかるか?」
「私がいると知れば姿を見せてくれるはずです」
周囲を見回すと光璃は深呼吸すると改めて周囲に声をかける。
「ルイン、戦う気はありません。お話しませんか?」
その声は周囲の大気に解けるが、しばし反応はなかった。
やはり一度戦ったせいで警戒されているかと思ったが、何となく漂っていた殺気のようなものが消え失せた。
同時に浮島の陰から人型の影が上ってきて三人のいる場所に降り立った。
「エルシェ、随分と久しぶりね。人間を連れて何の用?」
エルシェとはどうやら光璃の本来の名前らしい。
相変わらず淡々と語るルインにはまだ警戒されていると感じて、連也は一種の賭けだと手にしたエル・ラピスを近くの地面に力任せに突き刺した。
戦う空気のままではろくな話し合いができないと判断して、こちらから戦闘放棄の姿勢を見せたのだ。
「・・・・・・何の、つもり?」
「話し合おうぜ。最初に言っておくと、俺は天空都市の完全な味方じゃない。皆を守る為に戦おうとは思ってるけどな」
「連也さんは私を受け入れてくれました。騙して戦いを仕掛ける人でもありません。だから、戦わずにお話しませんか?」
「わかった。お前・・・・・・確か芦原って名前ね。私に何を聞きたいの?」
「話が早いな。そっちが何を目指して天空都市を攻めたのかを聞きたいんだ」
雰囲気を和らげたルインは三人に目線を向けるとこちらの意図を酌んで質問を飛ばしてくる。
それに対して躊躇う様子を見せたルインだが、意を決して口を開く。
その様子を見ると
「その前に答えて。お前、天空都市の動力炉の場所を知ってる?」
「それを探す為にあんたの力を借りたいんだよ。天空都市が隠してるものを俺は全て知らなきゃいけないんだ」
「・・・・・・わかった。お前は私に正面から向かってきたし、エルシェに免じて教えてあげる。天空都市の動力炉に使用しているのは―――」
何となく、そこにも闇が隠れているのだとは思っていた。
金が絡んでいるのかもしれないし権力が隠れているのだろうとは思った。
しかし、ルインの発言はその予測を飛び越えた。
「―――私達の同胞、その力を天空都市の人間は動力としている」
「・・・・・・そ、そんなっ!!」
「まー、あの島が浮くなんてフツーじゃ無理だよね」
光璃は愕然とした声を漏らして葵が複雑な表情で呟いた。
普通なら簡単に信じ込むべきではないのだが、天空都市が浮くということの異常さは地上に住んでいた二人からすればよくわかっている。
それにルインの言葉が真実だとすれば全てに納得がいってしまうのだ。
なぜ動力炉の原理さえも秘匿されているのか、
意志なき獣達が天空都市を一斉に目指していたのはなぜなのか。
「恐らくその同胞はまだ生きている。だから、私はその為に動いただけ。それに・・・・・・私達と戦うなら人間は敵よ」
「つまり、そっちも動力炉を目指してるって考えていいんだよな?仲間の気配みたいなものを辿って見つけられないか?」
「近付かなければ出来ない。だから、私は天空都市を目指した」
そこで連也は質問を止めて一度状況を整理してみる。
ルインの目的はどうやら天空都市中枢にあるもののようだが、それを奪えば天空都市は動力を失って落ちるかもしれない。
ならば、ルインと手を組むということは天空都市そのものの存続に関わる可能性があるということだ。
「でも、このままじゃ天空都市には簡単には近付けない。前回の戦いでもわかったろ。まだまだ、あそこには前回では使えなかった戦力がいる」
「・・・・・・それは、私と戦うという意味?」
「違うって、交渉しようって話だ。俺はルインに協力したいと考えてる。でも、天空都市そのものを落とされるのは見過ごせない」
天空都市にいる人々の生活を奪おうとは連也も考えてはいない。
英雄が愛した場所にはそれぞれの営みがあり、幸福に生きるべきだと考える。
天空都市でなくともそれは可能かもしれないが、地上に降りたとて暮らしていく術も当てもなくなるだろう。
「要するに、動力炉を探すのは協力する。だけど、そこに手を出すには今の天空都市のトップをその座から落とす必要があるってことだ」
「そんなことをしなくても、私がたくさん獣を連れて行けば終わる」
「お前は天空都市を舐め過ぎだ。俺が協力して動力炉を見つけても、動力の源を奪ったらどうなるかの解析をする時間が欲しいんだ。協力して貰えないなら、俺は天空都市の為に戦うしかないな」
ルインを利用するのなら手は一つだ。
鏑木を殺す為に彼女を利用して戦力へと加えるのが現状では一番の道である。
天空都市を落とさせないように話を持って行きながらも復讐には協力させるのが最善の手だと考える。
烈の死にはルインも関わっているのだから、命は奪わないまでも利用程度はされて然るべしというものだ。
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