第87話:暗躍
ここからの復讐は天空都市の闇に踏み込むことになるだろう。
恐らく、その謎が隠れているであろう場所の一つは想像が着く。
そもそも、鏑木が理事長でありながら天空都市で絶大な権力を誇っている裏には何があるのかという謎も知らねばならない。
頑なに隠されて場所すら不明だが、確かにそこは存在する。
そう、天空都市の動力炉の場所だ。
動力炉の場所を特定すれば復讐の際に大きなアドバンテージを背負ったことになり、石動教官と鏑木の悪事を暴くのに一役買うだろう。
復讐を遂げた後に天空都市を収めるには彼らの悪事を晒さねばならないのだ。
時間を与えれば鏑木にこちらの素性を掴まれる可能性も出てくる。
エル・ラピスを獲得したはいいが、あの行動には大きなリスクもあった。
翌日、連也は既に行動を起こし始めていた。
「……利用するみたいで悪いけど、これしかないよな」
「連也、どこか行くの?」
「ああ、ちょっと思い付いたことがあってな」
昼になって足早に目的地に向かう連也に着いてくるのは葵だ。
前に会った際には考えが固まり切らなかったこともあるが、あの時に聞いた光璃の気持ちを聞いて信じるに足る人物だと信頼を更に深めた。
少なくとも連也を陥れるようなことはしないはずだ。
訪れた場所はいつもの図書館、相変わらず彼女はいた。
「あ、連也さん。来てくれたんですね」
連也の顔を見るなり光璃は心から嬉しそうに微笑んだ。
相変わらず昼に図書館を訪れる生徒は多くないようで、彼女もさほど忙しくはなさそうに見えた。
「律羽から話は聞いてたけど、何人奥さん貰えば気が済むわけ?」
「……奥さん言うな。話を聞きに来ただけだ」
「れ、連也さんの奥さんですか……」
「ほーら、まんざらでもないって顔してるじゃん。三人目はそう簡単には認められないからね。あ、ごめん。初対面だった。よろしくね」
敵対心を燃やしたかと思えば、笑顔になって握手を求める葵。
恋愛的な意味では警戒する相手でも仲良くするかは別問題だという割り切りを持つのが葵の性格だった。
そもそも光璃と連也はそういう関係では全くない。
「葵はちょっと大人しくしてような。光璃、ちょっといいか?」
「はい、何か……?」
怪訝そうな顔をしながらも本棚の裏へと移動して話を聞く。
「いきなりで悪いけど、光璃はルインって名前の
「知っていますよ。昔に面識がありますから」
もう連也のことは信じると決めたのか、あっさりと重要な情報を漏らす。
天使型の生態はわからないが、面識があるということはどこか集落のような場所で暮らしているのかもしれない。
「そいつとこっそり会いたい。もちろん戦うつもりじゃない。むしろ、戦わない為に会えないかって聞いてるんだ」
「……天空都市の誰にも知られないようにってことですよね?」
「ああ、俺はこのままで天空都市が平和になるとは絶対に思えない」
「……こちらからは戦わないと約束してくれるならお手伝いします。そう言ってくれれば連也さんを信じます」
さすがに少し迷ったようだが、最後には光璃は頷いてくれた。
「ちなみに会うってどうすればいいんだ?」
「内緒でとなると難しいですが……私達は近づけばお互いが近くにいることはわかりますし、場所はまだ覚えています」
さすがの景と言えど密かに飛空艇を手配して、ここにいる三人だけで出発させるのは難しいだろう。
何より無理をして飛空艇を手配すれば必ず後で足が着く。
話を聞く限りではエアリアルだけで行くには遠そうな場所で、最悪ルインが仕掛けてきた場合の為に燃料は温存したい。
もちろん燃料を学園に申請するには常識的な量があるし、購入する金も時間もない。
大量の燃料か小型の飛空艇の手配が当面の壁だ、と以前ならそこで躓いたかもしれない。
「まあ、問題ないな。ここから手配できないなら地上に頼めばいい」
「地上に、ですか?迎えに来て貰うにしても天空都市の高度が下がらないと難しいですけど」
「天空都市には事情が無くても高度が下がる日があるだろ?」
それは天空都市で過ごしてきた連也にはタイミングがよくわかる。
地上からでは観測できない程の高度を飛ぶ規格外の島が高度を下げられる瞬間が確実に存在する。
「あ……もしかして、雨?」
「冴えてるな、葵。嵐じゃなければエアリアルで出てから途中で拾って貰うことはできる。外に出る時のセキュリティーも上にお願いしてあるからな」
「……何か悪いことをしている気がしますけど、連也さんを信じて頑張ります!!」
少し前の戦いの中で景に依頼していたのはセキュリティーを切る手段を模索することだ。
今では短時間であれば確実に悟られることなく天空都市の外には出られる。
天空都市が水を確保する為に高度を下げる日、そこが狙い目だ。
彼らが何を目指していたのか、何を知っているのかを聞かねばならない。
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