第79話:飛翔
光璃がこのエアリアル・アームを連也に与えても責を負わないかと一瞬だけ心配になったが、彼女が
景教官を巻き込んでしまうが、色々と筋書きは考えていたことも無駄になったがこの方がスマートに目的を果たせた。
そして、連也は飛翔を続けながらも新たに得た力の調整を思考錯誤している。
「・・・・・・久しぶりだな、エル・ラピス」
まるで烈を目の前にしている気持ちになって、目の前の白銀の剣に向かって語り掛ける。
真の名をエル・ラピスと付けられた神々しい剣はまるで連也のゲオルギウスの適応するようにその身を深い紫色へと変えていく。
エル・ラピスは
死ぬ前の烈が小細工をされていなければ、この力はどんな敵をも圧倒したはずだったのだ。
「さて、こんなもんか。まずは戦況を把握できる場所に行って、ついでに予備の燃料の調達か」
それを同時にこなせる場所と言えば中央、恐らくはそこからならどこへでも救援が間に合うだろう。
最前線には律羽がいるだろうし、彼女がいる部隊は大規模な襲撃にも何とかなるに違いないが問題は他だ。
目的の一つは達して、復讐者としての仕込みは終えた。
後は天空都市を守る騎士としての働きに専念するとしよう。
連也はエアリアルを軋ませて目的の場所へと一直線に飛翔した。
―――この戦場において、前線の指揮を司るのは月崎律羽だった。
敵の数は浮島に隠れている個体を含めれば何体いるのかも知り得ない状況で、圧倒的に敵に対する情報が不足している。
どう戦えばいいのかと戦術を組むのも敵の姿が浮き彫りになった状態になって初めて最適解に辿り着くものだ。
そして、律羽には大きな懸念が二つあった。
一般的に
天候の観測の役目も背負う観測施設でもこれだけの敵を補足できなかったということは身を潜めて近寄ったのは明白だ。
知性のない敵がこれだけの連携を取って一度に天空都市に押し寄せたなんて偶然があっていいものか。
それが一つの懸念材料であり、もう一つは自分を狙っている相手の存在だった。
以前は任務中だろうが手を出してきた相手がここでも手を出さない保証はどこにもないのだ。
それだけの懸念と筆頭としての重圧を同時に背負って律羽は戦場に立っている。
指揮官と言えど最前線で戦わなければ必ず犠牲が出る。
様子を伺うように並んでいる敵の獣達を眺め、律羽はその停滞を好機と見た。
律羽は手元のデバイスを取ると周囲に指示を出す。
―――遠距離武装を持つ部隊が一斉に敵目掛けて攻撃を射出する。
銃型、弓型、様々な汎用エアリアルがその威力を発揮して蜥蜴型が多いように見える獣の群れに容赦なく攻撃を浴びせていく。
だが、射程距離ギリギリの攻撃は殺傷能力が低いので牽制程度にしかならない。
その攻勢を左右に集中させ、律羽は中央を広く開けさせた。
刹那、待ちわびたように中央の獣達は突貫してくる。
「・・・・・・行きましょう、アイオロス」
鋼の天使が飛翔して、瞬く間に先頭の蜥蜴型数匹が首を砕かれて力を失う。
翼型の第二のエアリアル・アームがその死骸から更にセルを吸収して、己が飛翔する為の糧としていく。
手にした剣は命を奪うことに躊躇いがない獣相手とあって、人を相手にするよりも一段と冴え渡る一撃を周囲に振り撒く。
まるで舞踊が如く剣を走らせ、そのわずかな隙間は一撃で首をへし折る強烈な蹴りで埋めてつけ入る隙を与えない。
この戦場は早めに終わらせる、と律羽は獣達が退いてわずかに出来た隙に全身から力を抜いた。
「———
そして、振るわれた一閃は空間をも歪めて周囲の数十にも渡る獣災を一瞬で一掃しており、その死骸から更に失った分のセルを翼が風を集結させるように吸収していく。
これ程の敵を処理しておきながら、失ったエネルギーを補充し続けるアイオロスはエアリアル・アームの域に留まらない規格外の代物だ。
連也との戦いでは、その性質上は使えなかった機能も多かった。
連也のエアリアル・アームはわずかな隙も見逃さない性質を持つので、今のように翼と剣の出力を同時に重ねる一撃は使う暇がなかったのだ。
律羽は一対一でも最強を誇る騎士だが、集団戦において最大の真価を発揮する。
「・・・・・・さて、さっさと片付けるわよ」
他の騎士には律羽が打ち漏らした敵の掃討を頼んであり、敵が更に多くなった後に余力を十分に残すように作戦を組んだ。
何より律羽が最前線で力を振るうのがどちらにとってもやり易いはずだった。
そして、葬った獣が三百を超えた時。
明らかに体色の違う小型の個体が浮遊していることに気が付いた。
硬化した体表にルビーのような瞳、背中には大きな硬質の翼。
それらもまた上位種で、
並みの騎士が単騎で倒すのは不可能であろう敵の謂わば隊長クラスの存在である。
それが、律羽を強敵と判断したのか五体。
『き、騎士長・・・・・・悪魔型がッ!!』
律羽が伝令役に任命し女性騎士から、敵の接近を告げる報告があったがその頃には律羽は既に臨戦態勢を整えていた。
普通ならば絶望する局面だが、律羽は落ち着いて呼吸を整えた。
悪魔型が五体、それは・・・・・・。
その程度では月崎律羽を殺すことなど到底不可能だ。
悪魔型が反応できないだろう速度で、律羽はまずは一体の首を斬り飛ばす。
まさに縦横無尽、至高の騎士は長く美しい黒髪を靡かせて最前線から一歩も引かずにその威容を晒していた。
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