第73話:対最強


「本当に連也も君も面白いね。こうでなくちゃいけない」


岬は心底愉しげに笑い、構えを取った。


変化のない日常に岬は飽きつつあった変わり者だ。

実力が伴った上で物事をはっきりと告げる彼なりの交友関係は煙たがる者も多かったのだ。


あの日、連也を見た時に変化の予感を感じた。


地上の人間という意味ももちろんあるが、何かこの場所をどんな形にしろ変えてくれるだろうという新しい風を感じた。

岬は望んでいた、未知と出会わせてくれる存在を。


そして、彼の目の前には未知の能力を秘めた規格外の好敵手が立っている。


面白い、これで燃え上がらないようならば男じゃない。


「さあ、全力でやり合おう。心行くまでね」


「うん、負けないからっ!!」


こうして今回の主役ではない戦いは熱を帯びて燃え上がる。

しかし、主役だろうが何だろうがぶつかり合う者には関係はなく、戦いの結末も情熱も二人の物だ。


雷と炎は互いの熱をぶつけあうかの如く、激突を開始した。



―――その頃、連也は律羽がいるであろう場所へ向けてエネルギーを抑えつつ飛翔していた。


だが、その道中で面倒な男と出会ってしまった。


「てめえ・・・・・・ようやく会えたぜ」


以前に決闘を行った東間という不良と鉢合わせしてしまった。

この男ならば然程の手間はかかるまいと思っていたが、出来るだけ燃料は温存しておきたい。


「後で相手してやるから、ここは見逃してくれないか?俺は戦わなきゃいけない相手がいる。燃料を少しでも残したい」


「・・・・・・月崎とやるつもりかよ?」


「ああ、約束したからな。全力で戦うって」


「・・・・・・それなら、尚更に譲れねえなァ」


立ちはだかる東間に連也はため息を吐くが、その目を見て怪訝そうな表情になっていた。

その目には邪な色や意地の悪い色は不思議な程に見えなかったからだ。


「俺は・・・・・・てめえに勝たなきゃいけねえ。やることはやってきたつもりだ。次は真っ向から潰してやるってよ、だから・・・・・・逃がしてたまるかよッ!!」


世の中にも色々な人間がいる。


その中でも東間のように性格がひねくれていようが譲れない意地を持っている人間がいる。

プライドの問題かもしれないが、真っ向からリベンジする為に必死に努力してきたのだろう。

そんな人間の決意を無下にするのは失礼だと言えた。


戦う覚悟を決めた男の目をされたら、ここで無視することなど出来なかった。


「お前のことを少し誤解していたかもな」


「・・・・・・ああ?」


「いいぜ、先を急ぐからな。加減は期待するなよ」


「・・・・・・手加減したらぶっとばす」


そして、東間は以前と似た斧型の汎用兵装を構えた。

明らかに改修を重ねており、その構えも以前よりも相当に洗練されているのが理解できた。


だからこそ―――


「また受けてやるから、いつでも言ってくれていいぞ」


以前の焼き直しのように、再び勝負は一撃で終わる。

全力の連也の前には鍛えた分の技量ではその差は到底埋まらない。


「次こそ・・・・・・ぶっ殺す」


悔しさを噛み殺した声で東間は絞り出すが、どこかその声には清々しさのようなものが見えた気がした。

しかし、力の差こそ明らかだったもが、連也は確信していた。


この男はきっと強い騎士へと成長するだろうと。




かくして燃料の消費は予定を上回ってしまったものの。



辿り着いたのは予定通りと言えよう。



「ここで待っていれば来てくれると思っていたわ。私がここにいる情報も流しておいたから」


進んだ先には戦う約束をした少女が待っていた。

漆黒の美しい髪を風に靡かせ、静かな闘志と喜びを瞳に滲ませている。

至高の立場にありながら奢らず、美しい出で立ちで立つ彼女に不覚にも見惚れた。


微塵の曇りのない気持ちのいい闘志を向けて来る彼女の清々しさ、魂の輝きの美しさは唯一無二のものだ。


「・・・・・・何よ、私の顔じっと見て」


だから、何となく胸の内が温かくなるのを感じていた。


「・・・・・・お前、知ってたつもりだけどいい女だったんだな」


「な、何を言い出すのかしら。本当にそういう所が・・・・・・」


不意打ちに頬を赤くしてぼやく彼女だが、連也をいつまでも待たせるわけにはいかないと気を取り直す。

二人の間では既に戦意の交換は終わっている。


「さて、ようやくだな」


「ええ、ようやくこの時が来たわ」


試験という場を借りて二人の誇り高き戦いは幕を開ける。



「———ゲオルギウス」


「———アイオロス」



互いの力を呼ぶ声が戦場に響き渡った。




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