第71話:ハルピュイア
「僕に会いたくなかったって顔だね」
「ああ、そりゃ俺は筆頭様に目を付けられてるからな」
相変わらず敏い男で、誤魔化しても無駄だと考えて素直に腹を割って話をする。
ここで無駄な燃料を消費できないことも岬は察したことだろう。
正直、それを聞いて岬がどう出て来るのかに興味もあった。
この男が短い友情を取るのか、未知への興味を取るのか。
第一印象では後者を取る男であると思っていたが、すぐに仕掛けて来ないのには何か理由があるのか。
「連也の実力は知っているし、まだ僕達も知らない能力を持っていることも何となく察しているつもりさ。ただ、僕も優秀だからね。そうだな、燃料半分は貰っていくよ」
燃費や戦闘スタイルから考えて相性が非常に悪いことも岬は計算に入れている。
その上で連也が背負うリスクを明示して話を進めるということは岬の意図は一つしかない。
「取引をしないか?僕の頼みを一つ聞いてくれると約束したら、僕は連也と一切戦わない。悪い条件じゃないと思うけど」
「ああ、その内容次第だ」
「別に大したことじゃないさ、ただ―――」
岬はその内容を笑みを浮かべて口にする。
確かにそう悩む話でもないし、意図は明確なので特に躊躇う条件でもない。
そして、連也は機会を近いうちに作ると約束したのだった。
試験のルールでは、共闘して一人と潰すのは基本的に禁止されている。
今回の試験は単騎での技能を見るものなので駆け引きは評価されないし、獣災相手に知恵を絞った読み合いを挑むことも少ない。
ただし、こういった戦わない行為は特に咎められない。
そこを利用して岬は取引を持ち掛けたのだろう。
それならば、後は敵となるのは律羽のみ。
葵は連也と出会うまでに律羽や岬以外との交戦ならば、特に苦戦はしないだろう。
そう思って森を進んでいた頃だった。
その二人が交戦していようとは夢にも思わなかった。
「あ、岬くん。やっほー」
能天気に飛翔する葵は連也と別方向に向かっていた岬と鉢合わせていた。
完全な偶然で、葵はとにかく律羽や岬等の実力者以外を少しでも多く倒せという連也の打ち合わせ通りに行動していた。
連也から禁止されていたのは、律羽とは戦うなということだけだった。
「ああ、調子はどう?」
「四人くらい倒したよ、岬くんは?」
「僕はまだ一人かな。そこまで、この試験に面白みも感じないからね」
元より人見知りをしない葵は連也を通じて岬とも幾度も話をしていた。
二人は特に敵意は持たない様子で和やかに言葉を交わす。
「あはは、相変わらず変わってるね。それで・・・・・・わたし、もう行ってもいい?」
確認をしたのは岬から何とも言えない剣呑な空気を感じたからだ。
いや、剣呑と言うよりは闘志に近いものを持っている様子だったので、葵は念の為に声を掛けた。
「さっき連也と会ってさ。色々あって戦わなかったんだけど、折角だから面白い戦いはして終わりたいんだよね」
「・・・・・・いやーな予感」
「連也と戦わなかった分はその相棒でもいいかなって思ったんだよ」
岬は未知を好むのは葵も察する所だった。
だが、良くも悪くも興味のないことには関わらない主義で、地上や面白い人間への興味しかなさそうな印象だった。
「嫌いじゃないように見えるけどね。力と力をぶつけ合うのはさ」
「・・・・・・ま、いっか。どうせあんまり仕事なさそうだし」
考え込んだが、強い相手と戦って己を高める喜びを解する葵は岬の誘いに乗ることにした。
騎士たるもの、獣達と戦うことも大事だが普段から切磋琢磨するスポーツのような一面を持つのもエアリアルの特徴だった。
エアリアルは世界を守る力でありながら、天空都市最大の競技でもあるのだ。
連也と戦わなかったが、岬は連也の能力に興味がないわけではなかった。
ただ、今回は律羽と戦いたがっている連也を万全の状態で送り出してやろうという彼なりの友情だった。
だが、岬は冷たい言い方をするならば葵にそこまでしてやる事情はないと判断したのだ。
連也のように背負うものがないのなら、少しばかり退屈凌ぎに付き合って貰おう。
「個体名:アドラメルク、起動―――」
戦う意志を葵から見て取ると、容赦なく岬は自らのエアリアル・アームを起動して構えを取った。
岬のエアリアル・アームは高い火力と広範囲への干渉を可能とする、単純かつ強力な能力を持っている。
少し前までは葵のエアリアル・アームはなく、戦力差は明らかだったがそれでも彼女の技術は侮るべきではないと判断した。
だが、元より葵もあくまでも鍛錬として強者と戦うのは嫌いではない種族だ。
故に彼女は岬のあまりに唐突な宣戦布告に応じた。
彼女だけの新たなる力を以て。
「個体名:ハルピュイア、起動・・・・・・ッ!!」
葵の声がエアリアル・アームを起動する。
深い翠色をした装甲を基本に金色の装飾が絡みつき、エアリアル全体が大きく姿を変えている。
装甲はやや足に多く集中し、他のエアリアルと比べてもやや異質なのは間違いなかった。
その場に起こるのは小規模な雷が広がる放電に近い現象だが、それが遠距離で構えを取り直した岬を直接に襲撃することはなかった。
彼女は遠距離攻撃がさほど得意ではないが、ある点においては連也をも凌ぐ才能を持っていた。
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