第70話:試験開始



試験を行う場所は、学園から十五分程で到着する森だ。



本来の騎士の戦場が空なのは言うまでもない。

だから、騎士の集団戦の技能を問う試験も別にあるが、今回は技能や個人の能力を競う個人試験だ。


故に動きが取りづらい林の中が主戦場としてあえて指定されている。


浮島に上陸したとき等は林での戦闘もあるので、ここで慣れさせておこうという意図も感じられた。

そこで、それぞれに発信機付きのバッジが支給されて配置の説明がされる。


同じスタート地点から開始すれば、その場で大規模戦闘になるのは火を見るよりも明らかだ。


個人で敵を探し、立ち回りつつ燃料の管理までするのが今回求められる技能だ。

幸いにも連也は燃費の悪さを最初は烈から指摘されていたので、その対策についても教わって来ていた。


「さて、配置はここか・・・・・・」


連也は森の東エリアをスタート指定され、手元の小さなマップのみが搭載されたデバイスに目を通す。

地上と比べるとスマートフォンのように小型で何でもできる技術は天空都市にはないのだ。


ただし、マップの表示と簡単な記録などの一部の機能に特化させれば地上よりも優れた技能を発揮することも多い。


ここまで小型で記録を出来るソフトはまだ地上にはない。


「・・・・・・どいつと当たるかは運だが、まずは節約だな」


唐突に連也は腰に装着した燃料を外すと右手に持つ。

とっさの対応はわずかに遅れるが、起動しているエアリアルに装着しているだけでも燃料は熱を持ってしまう。

ほんのわずかにだが燃料は減少していく。

普段はそこまで燃料ぎりぎりの戦いになることはない上に、スペアがあるので対応力を重視して燃料の脱着はしない。


だが、この戦いでは燃料の節約は大きな鍵を持つのだ。


最初に支給された燃料は満タン状態ではなかった。

つまり、燃料切れで負ける人間も出て来るということだが、敵に奇襲されることも多い試験会場で燃料を外して節約できる度胸を持つ人間がどれだけいるか。


焦ることはない、戦いはまだ始まったばかりだ。


まずは周囲で最初に戦いを始めた人間の気配を察知する所から始まる。

今は大人しく見つかりづらい地上を歩いて向かうとしよう。


そう呑気に決め込んで連也は周囲に気を配りながらも歩き出した。


好成績を収めようと逸った人間が必ず最初に動き出すので、そこを倒せばいい。


岬のような燃費の悪い人間はその代わりに集団戦に滅法強いという利点を持つので、それを組み込んだ戦略を立てるはずだ。

連也も燃費はそこまでいい方でもないので、節約するには騎士が集まっている場所に行かねばならない。


歩くことしばし、楓人の耳が近くを飛空する音を聞く。


燃料をセットし、学園に侵入した時のように静かにエアリアルを駆動させる。

敵の姿さえ視認できればゲオルギウスが使えるが、今は少しでも燃料は節約するべきだ。


タイミングを合わせて、物陰から相手を強襲する。


エアリアルを一瞬で放出バーストの状態にして、空間を蹴り出して一撃で決めるつもりで物陰から躍り出る。

相手の姿は草木で視認出来ていなかったことが不幸だったのかもしれない。

不意打ちだろうが、この試験ではルール違反ではない。


それにも関わらず、その相手は辛うじてその一撃を躱して見せた。


そのまま幾度か蹴りを振るうが、その全てが躱される。

そして、戦って初めて相手が誰なのかに気が付いた。


「あれ・・・・・・連也?」


「岬、お前だったのか・・・・・・」


頭のいい岬がこんな所を警戒する様子も見せずに飛んでいると思わなかったので、連也の失敗と言わざるを得なかった。

強襲するのではなく、最初の相手は無理をせず様子を見るべきだったのだ。


最も戦いたくない相手とこうして交戦することになってしまった。


どうやら逸る連中をとやかく言えない程に連也も実際は冷静さを欠いていたようだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る