第69話:戦意
そのルールは燃費の悪い者は当然だが不利になり、特に岬のように燃料をそのまま
使用するタイプの能力はやり辛かろう。
故に合理的な考え方をする岬は直接は連也に勝負を挑まないと踏んでいた。
戦うにしても短期決戦となるはずだった。
故に燃料配分の八割はやはり律羽となるはずだ。
万が一、天木燐奈とも戦うことになったらと思ったが、外部への解説に回るとのことだった。
元から彼女のクラスとは当たらないので問題視はしていない。
「さて、行こうぜ、そろそろ時間だ」
「オッケー、それじゃ・・・・・・今回は連也が律羽に集中できるようにわたしも一肌脱いじゃうからね」
「ああ、頼んだぞ。俺もそこまで余力はないだろうからな」
葵と拳を合わせて、二人で試験会場に向かう。
この戦いは連也の復讐にとっても大きな意味を持つ戦いになるだろう。
その為には葵の協力は必要不可欠だった。
せめて倒した相手の燃料を拝借するのが禁止でなければ、もう少し楽な戦いが出来たのはずだがルールで禁止されている。
向かった学園の入り口付近には既に多くの騎士が待っていた。
緊張した面持ちの者も多く、中には手練れだろう落ち着いた様子でストレッチをしている者も時折見えた。
その人間の顔は出来る限りは覚えるようにした。
最悪の場合は戦いを避ける必要が出てくるかもしれないし、葵に任せる局面も出て来る可能性もある。
この試験は時には戦いを避けるのも戦略なので、特に逃亡に関しては減点されないルール付きだ。
優秀だと認められるには相手を倒した証である、燃料裏の装甲に仕込んであるバッジを集めればいい。
燃料付近は緩衝膜が非常に強固に張られているので、普通に盗んだりするのは無理なのだ。
燃料を落とされて死ぬのは絶対に避けたいので元からエアリアルは燃料は守る造りになっている。
また、そこから発する熱から人体や装甲を守る意味もあるらしい。
「こうしてみると結構多いね」
「ああ、これだけの数だと一斉に来られたら少し面倒かもな」
「あはは、相変わらず二人はとんでもない度胸だよね」
岬が苦笑しながら近寄ってきて、二人の力の抜けた様子を順番に観察する。
「まあ、今更だろ。それにこっちの人間ほど試験の重要性が理解できてないからかもな」
本当はその重要性も知ってはいるが、皆とは違うベクトルで試験を捉えているからかもしれない。
そして、もう一つの理由は恐らく・・・・・・。
律羽と戦うことを心待ちにしているからだ。
彼女は必ず戦いを挑んでくる、本来ならば自分の手の内を晒すのはデメリットでしかない。
だが、烈のエアリアルの場所を知ったことでもう一つの切り札が用意できた。
そうなればゲオルギルスの能力を晒さないことよりも、この試験で上の連中に近付く為の地位を獲得する方が重要性が高い。
加えて、律羽との対戦を楽しみにするのは連也に残された本能だ。
連也とて天空都市で生まれた装空騎士だ。
英雄である氷室烈から受け継いだ技能を以て空を駆ける戦士であり、負けたくないという本能だってある。
律羽は能力と人格共に連也が認めた人物で、そんな相手が連也を認めてくれた。
そんな彼女と堂々と戦える舞台で燃えなければ男じゃない。
復讐者としての心の内側には騎士としての夢が燃えている。
それが芦原連也の矛盾でもあり、前に進む原動力でもあった。
「芦原くん、今日はお互い頑張りましょう」
律羽も歩みを進めて連也に柔らかくエールを贈る。
だが、その瞳には堂々と向き合いたいという熱がこもっていることを連也は見抜いていた。
―――いいだろう、今の俺の全力でやり合おうじゃないか。
かくして、参加者の中でも最強を誇るであろう二人は試験前の戦意の交換を終えたのだった。
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