第65話:追憶-Ⅲ
そうして、至高の騎士は空に舞い上がった。
自身が万全でないことも知りながら、勝ちの目の薄い戦いへと挑む。
「久しぶりに暴れられるんだ。お前らは来るな」
そう言い残して無数の敵と対峙する烈の姿は決死の覚悟さえ垣間見えた。
「ねえ、連也・・・・・・私達、行かなくていいの?死んじゃうよ、烈!!」
「わかってるよ!!でも・・・・・・俺達じゃ力が足りない。だから、お前は助けを呼びに行ってこい。二番目に強い騎士を探しに行くんだ。街を少し探して、いなければ景を頼れ」
烈の次に優秀な騎士で単騎での戦闘力は限りなく最強に近いと言われた騎士が天空都市にはいる。
今なら避難を勧告しに街にいるだろう。
「・・・・・・でも」
「いいから行ってくれ。あの人を死なせないようにやるだけやってみる」
足は震えていて、それでも葵を行かせる為に虚勢を張った。
あれだけの数の化け物相手にして、自分の情けなさと力の無さを知るとは皮肉なものだ。
葵が駆け去ったのを見て、いつでも手を貸せる準備をしながら戦いを見守った。
そして、獣と烈の激突は壮絶だった。
「す、すげえ・・・・・・」
連也が呆然と呟くほどに全力の烈は騎士として完成されていた。
時折、妙にふらつくことはあれど、それを補う動作を自然に入れて上手く飛行を続けている。
その蹴りの一撃だけで獣は頭を砕かれて破壊される。
回避から攻撃までの判断能力と動きの速度は葵や連也でさえも至れないと思う境地だった。
攻撃の多くは蹴りを使い、腕は補助で使えと連也達は教わった。
単純に足にブースターが装着されていることもあって、蹴りの方が破壊力が出る。
そして、腕とは防御の際に最も素早く出る体の部位だ。
攻撃に腕を使えば切り返しに対応が遅れるので、威力もリーチもある脚を基本とした戦いをしろと言われていたのだ。
その基本理念は景の教える授業などにも受け継がれている。
そして、獣の攻勢を捌く烈の前に銀色の髪をした何かが立ち塞がる。
「人間・・・・・・か?」
何を話しているのかは聞こえないが、あれを見た瞬間から動悸が収まらない。
あれは人間ではない、人間以上のものだと連也の全身の勘が訴えて来ていた。
あんなものと戦えば連也はもちろん、烈ですら危うい。
せめて、周りの獣を何とか出来れば。
「・・・・・・行く、しかないか」
振るえる足を何度も何度も叩いて強引に立ち上がる。
ここで動けなければ一生後悔することが自分でもわかっていたから、恐怖心をねじ伏せて立ち上がる。
だから、連也は地を蹴って空へと舞い上がった。
みるみる内に獣の群れの一角へと迫り、同じく獣の首を蹴り飛ばす。
子供の脚力であろうとエアリアルによる増強は絶大だ。
首がへし折れて吹き飛ぶ獣を見たが、それを確認して獣の群れが一斉に連也へと目を向けた。
「連也ッ、何してんだ馬鹿!!」
「いいから、そいつだけに集中しろよ!!」
血相を変えて怒鳴り返して、連也は必死に戦い続けた。
何をしているのかもわからないで次々と迫りくる獣を粉砕して次の獣へと向かう。
さすがに多くの仲間を粉砕されたからか、遠巻きに様子を伺うようになっていた。
そして、ようやく烈の戦いに目を向けられるようになった。
「・・・・・・はぁ、はぁ」
万全ではないにも関わらず、凄まじい速度で飛翔する人型の個体と烈は渡り合っていた。
あれだけの速度に対応できる騎士は間違いなく天空都市にも一人だけだ。
だが、あまりその戦いに見とれている暇もない。
「さて・・・・・・残りも何とかするか」
そして、前を向いた時に強烈な違和感が襲った。
違和感というよりも全身が警鐘を鳴らすのを聞いた。
昔から連也はこういう場面での危機察知能力は烈を超えるものがあった。
その優れた感ゆえにエアリアルを短期間でここまで扱うに至った。
「えっ・・・・・・?」
バチリと緩衝膜に何かが凄まじい衝撃と共に弾かれた。
獣達の攻撃ではなく、膜から零れ落ちたのは紛れもない銃弾だった。
そして、それは開始の合図だったのだろう。
無数の銃弾が飛来して連也目掛けて放たれていく。
緩衝膜に弾かれ、銃弾を躱し、抵抗を続けた楓人の左足を銃弾が貫いた。
激しい痛みの中で必死にエアリアルの制御を保つ。
「い、てえ・・・・・・俺を、狙ってる?」
明らかに獣災への銃撃はなかった。
これは恐らく人間による狙撃、そして激痛で埋め尽くされる頭の中で考えたのは烈が狙われたのではないかということだった。
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