第58話:宴会-Ⅱ
「ご、ごめんっ!!遅くなっちゃって!!」
北尾と話し終えた時にちょうど葵がやってきた。
もう少しギリギリで来るかと思ったが、さすがにこういう日は時間を守るようだ。
「時間はまだあるから大丈夫だよ。会場は律羽も手伝ってくれたらしいし綺麗だよな」
「そうだねー、なんかクリスマスパーティーみたいじゃん。ありがとね、律羽」
「私は少し手伝っただけだし、大したことはしていないわよ」
「それでも、わたし達の為に頑張ってくれたんでしょ?」
律羽と葵は相変わらず仲睦まじい様子で、律羽も葵には気を許しているようだ。
ふと、葵と視線が合うと彼女の瞳が何がを告げていることに気付いた。
いよいよ今日を迎えた、そんな声が聞こえてくるようだった。
連也も葵も今日の為に準備をしてきた。
葵を付き合わせた以上は絶対に失敗は許されない。
程なく時間が過ぎて、宴会は始まろうとしていた。
「地上より非常に優秀な二人が天空都市に来てくれました。私も実際に接し、人柄も問題ないと感じております。是非、交流を持っていただければ幸いです」
理事長が主催者としてフォローを入れてくれて、集まった人間の視線の警戒も少し緩和されたようだ。
今宵は歓迎の宴、さすがに妙なことを仕掛けてくる人間はいないはずだった。
今日という日に何か妨害をされるのは避けたかったので、こればかりは祈るしかない。
そして、宴会はつつがなく進んでいく。
来賓も地上の話をしきりに聞きたがり、地上にある店のことや仕事のことを話して聞かせると知らないことも多かったようで非常に喜ばれた。
連也も葵も人当たりは良いので警戒が解けるのも時間の問題だった。
その後、ようやく人が離れ始めて一息ついた時。
「久しぶり、元気そうだね」
声を掛けてきたのは律羽に続く騎士であると噂の天木燐奈だった。
隣には妹の琴音を連れていた。
「ああ、おかげでな」
「色々な人とお話してたし、疲れるよね・・・・・・」
自分がそうなったらと想像したのか琴音は少しだけ憂鬱そうな顔をする。
姉の燐奈は上手く捌くだろうが、妹には確かに無理そうだった。
「ま、よかったんじゃない?色々な人が話かけてくれるようになってさ」
相変わらず燐奈は、はっきりと思ったことを言ってくる。
その素直さは連也は決して嫌いではなかった。
腹の底にどす黒い本音を隠している人間よりはよっぽど信用できる。
「まあな。これで怖がられなくなるといいんだがな」
「だ、大丈夫だよ。芦原君、とってもいい人だし。私にも話しかけてくれるくらいだもん」
「自虐が過ぎると思うけどねえ、ごめんね・・・・・・うちの妹、イマイチ自分に自信がないみたいでさ」
「こればかりは少しずつ自信を付けていくしかないだろうな」
琴音は心優しい少女だし、何だかんだで話をすれば真摯に付き合ってくるので自信を持っていいと思うのだが。
「そういえばさ、律羽とはその後どう?」
「どうって何だよ。上手くやってるぞ」
「いやー、律羽って君のこと気に入ってるじゃん?ね、律羽?」
燐奈はにやーっと楽しそうな表情になって、連也の後ろに目線を投げた。
後ろにはふいと視線を逸らす律羽がいた。
「ま、まあ、別に悪い人とは思わないけど」
「別に私は律羽と彼がくっつこうが応援するけどね。それとも、私にしとく?」
「・・・・・・燐奈?」
すっと律羽の目が細まったのを見て、燐奈は愉し気に笑う。
どうやら真面目な騎士長様をからかうのが楽しくて仕方ないらしい。
「嘘だってば。彼は良い人っぽいけど、年下は趣味じゃないんだよね。やっぱり取られたくないんだ?」
「そうじゃないわ。あなたも立場があるんだから、あまり軽はずみな言動はしないでってこと」
「・・・・・・ま、そういうことにしといてあげる」
別の意味で火花を散らす二人を尻目に連也は北尾の様子を確認していた。
葵もそれを意識してくれているようで、会話に参加せずにさりげなく辺りをうろついていた。
今夜を逃せば北尾の命を奪う作戦はしばらく先になるだろう。
時間を置けばそう簡単には行かなくなるかもしれないし、今日が最後の機会のつもりで当たる必要があった。
そして、待ちに待った機会は訪れようとしていた。
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