第54話:図書館の聖少女-Ⅲ
「そういえば、地上から人が来たのは知っているだろう?」
「はい、芦原さんとはもうお話しました」
「そうか、元はここの住人ではない同士で気も合うかと思ったが心配なかったようだね。どうかな、彼は?」
彼女の交友関係を心配しているように、理事長は安堵を表情に浮かべる。
しかし、その表情もどこまでが本当なのものかと光璃はため息を吐く。
彼女は基本的には誰にでも友好的に接するように心がけている。
折角、図書館に来てくれた人間が気を悪くするのは嫌だった。
授業も通常の人間より少ない彼女にとっては図書館での時間はかけがえのないものだったのだ。
だから、連也が来てくれて話が出来てとても嬉しかった。
「とても良くしてくれますし、いい方でしたよ」
「私も話してみて、とても気持ちのいい人間だと思ったよ。天空都市出身でない分、先入観もない。招いたのが彼と上城君でよかったと思っているくらいだ」
「そうですか、その点は貴方に感謝するべきですね」
「仲良くしてくれたまえよ。君の為にも、彼の為にも」
にこっと笑顔を見せる理事長からは娘を心配するかのような誠実さが垣間見えた。
それを信用するかは光璃次第ではあるが。
何を考えているかが読めないこの男に気を許したことはなかった。
「芦原さんを使って何を企んでいるのか知りませんが・・・・・・少なくとも私は彼をいい方だと思っていますし、もっとお話したいと思います。その意味はわかりますね?」
柔らかい口調で告げながらも、その瞳は鋭く理事長を見つめていた。
彼女は理事長に告げているのだ。
妙なことをすれば黙ってはいないと。
信頼できるのは鏑木始よりも芦原連也の方だと。
「やれやれ、付き合いは私の方が長いんだがね」
「付き合いの長さよりも、人柄が大事ですから」
「私が決して人柄がよくないのは承知だが、はっきり言われると悲しいね。邪魔者はお暇するとしよう」
理事長は肩を竦めると図書館の入口へと戻っていく。
その飄々とした掴み所のない様子が警戒されることも承知しているはずだった。
だが、その足が入り口付近で止まる。
「そうそう、実は先日に芦原君が向かった任務に
「それが私だと・・・・・・?」
意味ありげな切り出し方に光璃は眉根を寄せて始を見据える。
「
心外だと言いたげな光璃と笑みを浮かべたままで見返す始。
「私はここを出ていませんし、人を襲うことなど有り得ません」
「それならいい。今後も平和な学園生活を送ってくれたまえ」
気さくに手を振ると始は図書館を後にした。
その唇に不敵かつ歪んだ笑みを浮かべながら。
「———残念ながら、君が平和を謳歌するのはまだ早いよ。
そして、連也が図書館で光璃と出会った翌日。
「まあ、読書が趣味って言ってもいいしな」
連也は再び朝早くから図書館を訪れていた。
別に光璃がいなければいないでゆっくりと読書して学園に向かえばいい。
特に下心もあるわけではなかったが、一緒に趣味を共有できる仲間がいるならその方がいい。
「連也さん、来てくれたんですね」
連也が姿を見せると、椅子に腰かけて読書していた光璃はぱあっと表情を明るくした。
そこまで喜ばれると素直に嬉しかったし、来てよかったと思う。
「ああ、せっかく読書仲間が出来たことだしな。これを機に色々と読みたい」
「授業までですけど、ゆっくりしていってくださいね」
「おう。何かお薦めがあれば頼む。この前のは読んできたけど、面白かったな。あのトリックは読めないな」
「私もあれはお気に入りなんです。それじゃ、今日も何かお薦めしますね」
お薦めされたミステリーは非常に面白かった。
重厚なストーリーだが文章が上手く纏まっていて読み易い。
これが地上に出ればきっとベストセラーを狙えるレベルの作品だと実感できた。
光璃は同じくミステリーの棚で色々と吟味してくれている。
他人に薦めるとなるとプレッシャーがかかる気持ちはよくわかる。
「別に軽い気持ちで薦めてくれていいんだからな。合わないのもあるかもしれないけど、それは光璃は何も悪くないんだ」
「折角なら楽しく読んで欲しいですから」
彼女のそんな返答からも彼女の優しい性格が伝わってくる。
「そうだ、今日はエアリアル関連からも二冊くらい欲しい。出来れば獣災の特徴が載ってるのもあると助かるな」
連也が持っている獣災への知識はそこまで豊富でもない。
戦うのであれば、念の為に今の知識を頭に入れておく必要があると考えた。
「わかりました。戦う時に知識は大切ですよね」
「ああ、俺もそれなりに戦力にはなれそうだからな」
「・・・・・・・・・少し、変なことを聞いてもいいですか?」
光璃は少し躊躇った後に連也を一瞥すると訊ねた。
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