第52話:図書館の聖少女
今日もいい朝だ。
連也は宴会まで迫った日を意識しつつも爽やかな目覚めを迎えた。
朝はそこまで弱くはないので、必要以上に早く起きることに抵抗がない。
まだまだミステリー小説のストックはあるが、今日は気分転換の為にも少し早めに行こう。
データベースにもあれから入ってはいるが、新しい情報はそこまでなさそうだ。
東間にIDカードは一旦返したが、いつでも貸してくれるそうだ。
素晴らしい友人を持って何より。
“先に行くからな。律羽の様子に問題がなければ連絡くれ”と天空都市から配布されたデバイスで連絡を取り、朝食もそこそこに連也は早めに寮を出ることにした。
学園の図書館は早めの時間でも空いているそうなので、読書しつつゆっくりしてから行く予定だ。
色々と調べたいこともあるので、丁度いい場所だ。
思えば地上にも流通している本がここにあることが不自然なのだ。
時々だが、天空都市から地上の視察に騎士が赴くという話は聞いた。
しかし、その際に技術まで持ち帰っているそうだが、それは地上に長期滞在する人間が存在している事実を示す。
言い換えるなら天空都市出身で地上に住む人間も複数いるということだ。
そうでなければ地上での滞在任務など不可能だ。
それを連也は何年も前に知っていた。
恐らくは天空都市の人間はそこまで気付いていない。
地上から技術を持ち帰るのは容易いと思っている人間が多く、天空都市の騎士の滞在任務期間だけで可能だと思っている。
セルの転用により、エネルギー利用に関しては簡略化されたことで技術を学ぶことに膨大な時間を費やすという実感がない。
例えば火を起こす技術にしても、昔の人間には慣れがいる作業でも現代ではボタン一つだ。
時代や状況によって技術習得に関する認識は変わる。
恐らく天空都市から密かに地上に潜り込んでいる者がいるのには、律羽を襲った勢力も関わっている可能性があった。
「何にしても、今は動けないな」
一人でまだ静かな道を歩く。
いかに色々と考えるべきことが多かろうが、連也は学生としてここに来ている。
楽しめる時には楽しむのは当然だと思っていた。
だから、こうして図書館に赴いて新たな楽しみを見出そうと試みた。
図書館は町の公民館にある図書館よりも大きい程度の規模で、昼でもなければ人はほとんど来ない。
深い色の木の本棚、テーブルに全体的に濃い色の木材の味を活かした景観だ。
やはり鍵は開いており、連也は既に本の物色を開始していた。
蔵書を確認しながら歩いていくが、やはり地上でも三十年以内に世に出たものもそこそこ多い。
そこで、ふと連也は足を止めた。
「懐かしいな・・・・・・。これ、よく読んだなぁ」
懐かし気に目を細め、そのミステリー小説を手に取る。
犯人も全て覚えているのに、ページを捲るだけで妙な感情が湧き起こってくる。
地上の両親の書斎にあったものをよく読んだ。
「その本、好きなんですか?」
まるで歌うような涼やかで美しい声がした。
誰もいないと思っていたので少し驚いたが、声のした方向を確認する。
そこには連也と同じ制服を着た少女が立っていた。
腰まである美しい金色の髪、唇に浮かべる笑みには嫌味がなく優し気な色を持っている。
静かな中に強い意志を感じる瞳と裏腹に柔らかい雰囲気を匂わせる。
客観的に見て美しい少女だった。
まるで、人間離れしている程に。
「私は
「ああ、やっぱり有名人だったか」
「ふふっ、かなり目立ってますよ」
「人気者は辛いな。少し本でも読んでゆっくりしようかと思ってな」
柔らかく笑う少女に軽口を叩きながら手にしていた本を戻す。
単に懐かしくて追憶に浸っていただけで、内容自体はよく知っているものだ。
「その本、いいんですか?貸出できますよ」
「前に読んだ記憶があっただけだ。今日は他のにするよ」
「あ、ごめんなさい。もしかしてお邪魔でしたか?」
ゆっくりしたいと言っていたのを思い返したのか、光璃と名乗った少女はばつの悪そうな顔になる。
彼女の俗世離れしたような美しさ故か、そんな表情でさえも絵になる。
律羽も張り合える程の美人ではあるが、彼女は雰囲気そのものが何か神聖さを持っている気がしてくる程だ。
そこが彼女の美貌に磨きをかけていた。
「いいよ、人と話すのは嫌いじゃない」
申し訳なさそうに謝ってくる少女に事も無げに答える。
確かに美人だし気立ても良さそうだが、下心があるわけじゃない。
それに個人的な話をすれば律羽の方が好みである。
だが、それでも話しかけてくれる学友を迷惑だと思うはずがない。
「ありがとうございます。それじゃ、少しお話してもいいですか?」
「ああ、いいよ。読書始めるかもしれないけど、没頭するタイプじゃないから遠慮なく話しかけてくれ」
「はい、そうしますね」
連也が本を選ぶのをにこにこと見守っている光璃。
本が好きなのかもしれないが、少し変わっている子だった。
「エアリアル関係の本とかはないのか?」
「ありますよ、こちらですね」
図書館に関しては知り尽くしているようで、少し離れた本棚に案内してくれた。
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