第51話:ガールズトーク-Ⅱ

「いいよ、わたしに答えられることなら」


「二人にエアリアルを教えたのはどんな人だったの?」


以前から時々はその人間の話を連也はしてくれた。

しかし、そのことを語る時に深い悲しみと憧れが表情に滲むのを見て、最初に律羽は察していた。


ああ、その人は恐らくもうこの世にいないのだ、と。


だからこそ律羽は深くは聞けなかったし、連也もそこまでは話してくれない予感があった。

連也のことを知る為にも今はそこに踏み込んだ。


「連也、話したんだ。まあ、わたし達が経験者なのバレバレだよねぇ」


「あなた達の強さを見れば、教えた人も相当な騎士だったはずよ。私も知っている人間かもしれないわ」


連也も葵も基本どころか応用までも自然にこなしている。

何より、その動きはかなりの腕の人間を何度も相手にした経験から来るものだ。

あれだけの動きを教えられる人間は教官でもさほど多くないはずだった。


「そうかもね。エアリアルに関しては凄かったし」


「二人の技術は全てその人から教わったの?」


「少なくともわたしはそうだよ。自分で技術作れる頭もないからさ」


葵は連也が話したことならと観念したか、あっさりと自分のことを話してくれる。

律羽としては話したくないことなら、それ以上は突っ込めないと考えていたので拍子抜けするほどだった。


だが、律羽はその返答を聞いて二人の師匠の正体に思い当っていた。


その手掛かりは葵と手合わせした時に既にあったのだ。


「・・・・・・氷上烈ひがみ れつ。あなた達の師匠はそういう名前だったはずよ」


「・・・・・・・・・あっ」


葵は思わず表情に驚きを浮かべてしまい、過去の己の失態を思い出した。

律羽との戦いに熱中するあまり、師匠にしか使えないはずの技術を使いかけてしまった。

一回だけなのでバレなかったかと考えたのだが、律羽はあの戦いを思い出して葵の使った技術にも思い至った。


それはその男に強い憧れを持っていて、かつ実力も飛び抜けた律羽以外で気付ける人間はほぼいないだろう。


無論、連也も律羽もエアリアルを教えてくれた男が偉大な騎士と呼ばれた人間であることは知っていた。


「やっぱりそうなのね。それなら、二人の力量にも納得が行くわ。そういえば氷上さんは長期の地上滞在任務に行っていたはずよ」


天空都市では定期的に騎士を地上にこっそりと派遣している。

それによって天空都市は現状の技術をアップグレード出来ている。

どうやって地上での生活を成り立たせているのかは謎ではあるのだが。


「い、いやー、名前で呼ぶことってほとんどなかったし・・・・・・違うんじゃないかな。よくお尻ボリボリ掻いてたし」


「お尻ボリボリくらい構わないわ。私はあの人のような騎士になりたいと思っていたんだから」


律羽はいつになく身を乗り出して葵に迫る。

お尻ボリボリさえも許容されるとは思わなかった葵はさすがにたじろぐ。

どうやら、もう誤魔化しても無駄らしい。


「で、でも・・・・・・師匠、死んじゃったから」


「わかってるわ。殉職する最後まであの人は立派だった。街の一部が焼けて、彼の家族も命を落としたらしいわ。それじゃ・・・・・・何の救いもないじゃない」


「・・・・・・律羽」


律羽に力があれば憧れたいた人間も救えたかもしれない。

今は英雄として死んだ、氷上烈と同じく天空都市を皆を救いたい。

汚れのない思いで律羽は戦っており、それを葵も見ているからこそ何も言えなかった。


「だから、私は英雄を目指してるの。もう誰も死なせたくないから」


「そっか。ちょっと律羽もそういう所は似てるかも。師匠が教えてくれた期間はそこまで長くなかったけど、皆が笑顔で暮らして欲しいっていつも言ってたから」


「ええ、私にも何度か声は掛けてくれたけど、本当に素晴らしい騎士だった。子供にもエアリアルを無償で教えたり、まさに騎士のお手本だったわね」


二人で英雄の思い出を共有できると思わなかったが、律羽も二人の謎が一つ解けてすっきりしたようだ。

葵も妙な事態にならずにほっと胸を撫で下ろしている。

妙なことになれば、いかに葵に甘い連也と言えど激怒する可能性もあったからだ。


「それでお願いがあるんだけど」


「な、何かなー?」


既に嫌な予感がしていた葵の顔色は悪化していく。


「あの、二重放出バーストレインを教えてくれないかしら」


「そ、それなら連也に教えて貰うといいんじゃないかなぁ。連也は師匠がいいセンスしてるって一番期待してた弟子なんだよ」


これ以上ボロを出す前に連也に押し付けたはいいが、葵は内心で冷や汗をだらだらと流していた。

そして、連也への申し訳なさで心の内で何度も謝罪した。


「・・・・・・ごめん、連也ぁ」


半べそで葵は呟くと後は頼れる相棒に任せることにしたのだった。


「それでもう一ついいかしら」


「そ、そろそろお眠の時間だなー!!」



だが、律羽は珍しくハイテンションでしばらくの間は葵を寝かせてくれなかった。



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