第50話:ガールズトーク



少女二人が残された部屋。



「ね、連也と何かあったでしょ?」


連也が消えるなり、葵はずばりと核心に踏み込んだ。

彼女の目から見ても律羽が連也を更に信頼するようになったのは明らかだった。

デートであると認めたのも妙だった。


「べ、別に何もないけど・・・・・・」


「別に誰かに言ったりしないからさ」


連也と同じ無邪気な笑顔で葵は笑いかける。

その瞳には恋愛的な意味で牽制をしようという気持ちは微塵もないと感じさせる。


「・・・・・・芦原くんって昔からあんな感じだったの?」


「うん、そだよ。意外と一度決めたら頑固だけど、お人好しだから寄り道しちゃうんだよね」


「そうね、変な人だけど・・・・・・お人好しは間違いないわ」


思い返せばこの短い間に色々なことがあった気がする。

出会った時も連也は律羽を救いつつもモノレールの乗客を救うために動いた。

悩んでいる人間がいれば真剣に考えて答える。

要は他人を見捨てられない人間で、それを律羽は好ましく思っていることも事実だ。


「・・・・・・・・・」


「どうしたの?じっと見て」


「・・・・・・惚れちゃった?」


唐突にそう言って、にやーっと笑う葵。


「そ、そんなのじゃないわよ。ただ、いい人だってのはわかるわ」


律羽は妙にどきりとして慌てて取り繕う。

葵だって連也のことは恋愛的な意味で好きだろうに、今では全く嫉妬を見せるないのはなぜなのかと少しだけ不思議だった。


「わたしみたいに素直になると楽だよ」


「あなたは素直過ぎるのよ。どっちにしろ、見ていれば芦原くんのことが好きなのは一目瞭然だけど」


「いやー、照れるね。わたしは連也ラブ勢だから。でも、律羽も多少なりとも気になってるでしょ?」


これが恋愛感情なのかを彼女自身も持て余しているというのが正直な所だ。

出会ってからそこまで経っていないのもあって、すぐに結論付けることは出来なさそうだ。


それでも、芦原連也の在り方に惹かれているのは間違いない。


奔放でありながらいざという時には不思議なほど頼りになって、自分なりに強い信念を持って行動している。

そして、自身の信念を持ちつつも他人を素直に認められる。


律羽の弱い所も見抜いていたくせに、理想と戦う律羽が好きなのだと初めての言葉をくれた。


もしかしたら、そんな所が―――


「・・・・・・そ、そんなことはないわ。多分ね」


自分の中に出かかった思いに必死で蓋をした。

出会って少しばかり優しくされて、その男が少しだけ尊敬できる相手だったからといって惚れるなどあまりにも単純だ。


違う、断じてそんなことはないはず。


「いい傾向だね。わたしはね、天空都市で律羽と一緒に連也と暮らしたいなーって思ってるから」


「・・・・・・・・・そんなこと考えてたのね」


「わたしは律羽なら連也の嫁と認めてもいいかなって思ったのさ!!」


満足そうに頷く葵に突っ込むが、自分の世界に入ってしまった彼女には届かない。

そんなマイペースで明るい彼女を素直に羨ましいと思う律羽がいた。


周りまでが笑顔になれるような陽気さ、自分の気持ちに向き合う素直さ。

葵のような強さは律羽にはないと思っている。


だから、きっと葵のような少女といる方が連也も幸せなのかもしれない。


「わたしはさ、連也に帰る場所があればいいなって思うんだ。それにはきっとわたし一人じゃ足りないから」


だが、不意に葵は目を伏せて神妙な様子になって言う。


「帰る場所・・・・・・?」


何か嫌な感じが律羽の胸の中に広がる。

まるで連也がどこか遠くに行ってしまうような不吉な響きだった。

そうして、また律羽は気付いてしまう。


自分は彼に傍にいてほしいのだと。


彼も話したくないことがあるのは察している。


だが、ここで踏み込まなければ律羽は永遠に蚊帳の外だ。

今まで以上に芦原連也のことを知りたいと願った。


故に彼女は今まで何となく避けて来たことを聞いた。


「そういえば、聞きたいことがあるの。いいかしら」


月崎律羽も連也のように前に進む時が来た予感があった。

友人として、彼らのことを全て受け入れようと思う。


そうでなければ本当の交流の意味がない。


何より二人のことを知らなければこの気持ちにも決着がつかない気がしていたのだ。

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