第49話:訪問
「まあ、とりあえず今は宴会に全力を注ぐんだな」
「ああ、そうするよ。一応、律羽の周囲には景も気を付けていてくれると助かる」
「お前のことだ。俺の傍を離れるな、とか言ったんじゃないか?」
「・・・・・・・・・」
付き合いの長さとは恐ろしく、連也の取りそうな行動などお見通しだった。
さすがは年長者だけあって連也よりも上手のようだ。
教官を務めるだけの知識もあり、これだけの男が力を貸してくれていなければ連也はここにいないだろう。
「別に俺は連也が律羽に惚れても構わんぞ。葵は不憫だが、どうせなら二人とも貰ってやれ」
「百歩譲って実現するとして、俺にそんなことが出来ると思うか?」
「前にも言った気がするがな。俺は連也を不幸にする気はないわけだ。やりたいことやって、図々しいくらい幸せな結末を迎えていいんだよ」
「・・・・・・考えとくよ」
果たしてそんな結末が実現するのか、していいのか今の連也にはわからなかった。
連也が行おうとしていていることは露見すればただでは済まない。
まだ始まってすらいない状態では幸せな結末など望むべくもなかった。
「さて、お前もそろそろ休め。心配なら月崎に顔でも見せてやったらどうだ?あいつも少なからずお前のことを気にしているようだからな。上手くやれよ」
「景・・・・・・お前、意外とそういう話好きなのな」
「俺はお前のことは弟みたいなもんだと思ってる。そんな奴の恋路が気にならない奴がいるもんかよ」
景とてまだ若いのにすっかり精神的に親戚のおじさんへ変わってしまったようだ。
連也は景と別れを告げて寮へと戻っていく。
言われたことを気にしたわけではないが、律羽に顔を見せようと思う。
精神的に負担もかかっただろうし、少し様子を見てこよう。
律羽をデバイスで呼び出して、律羽本人に許可を貰って女子ゾーンに侵入成功する。
指示通りに今日は葵の部屋に滞在し、二人は仲良く談笑しているようだった。
部屋に顔を覗かせると葵は嬉しそうに手を振ってきた。
「あ、連也だ。やっほー」
「遊びに来たぞ。何やってたんだ?」
「ガールズトークとか?お泊りみたいで楽しいね」
「一応、律羽のボディガードなんだからな」
水を差すのも悪いが、その自覚だけは頭の片隅に持っておいて欲しかったので苦言を呈する。
葵は意外としっかりしているので、忘れていないとは思うが。
まだ来たばかりの天空都市でこっそりと情報収集を成功させた相棒だ。
おかげで最近の街の仕組みなども把握できたので、円滑に計画は進んだ。
「わかってるって。ついでに律羽と遊ぶのもいいじゃん」
「まあ、お前らの友情を否定する気はないぞ。仲良くやってくれ」
「私もこうして友達の部屋に泊まるのは初めてだから新鮮ね」
「まあ、騎士長様を部屋に誘うのはハードルが高いからな」
律羽は優しいのは周知の事実だが、クールで出来る女のイメージもあるので女子会のようにワイワイやるイメージはないようだ。
そのせいか、友人は多くても誘われない集まりもあるように見える。
口ぶりからして少し気にしている様子である。
「・・・・・・人を部屋に呼んだ地上から来た男がいたわね」
「気のせいだろ。誰だろうな、そいつ」
目線を逸らして口笛を吹く。
そういえば地上から持ってきたミステリー小説がうんぬんという話をした大胆不敵な男がいるらしい。
「ふふっ、やっぱり変よ。芦原くん」
律羽がくすくすと失笑しながらそう言った。
突っ込むよりも先に笑いが襲ってきたらしく、しばし笑っていた。
「連也は図太いからねー、物怖じしてるの見たことないし」
「お前が言うな、葵の神経の方がごんぶとだろ」
「いーや、連也の方がごんぶとだね!わたしは結構繊細なんだから!!」
意味不明な言い合いを繰り広げる地上人同士。
こういった同類同士の仲間割れのような争いはいつだって醜いものだ。
「私からするとどっちもどっちね」
復活した律羽が至極冷静で、中立的なセリフを口にした。
「でも、二人ともありがとう。私の立場を聞いても遠慮しないでぶつかってくれる友人が出来て本当に嬉しいから」
律羽は言葉に万感の思いを込めて、二人に向けてそう告げた。
彼女は連也に対しては口が悪いこともあるが、それは気安さからくる軽口のようなものだ。
決して律羽は感謝や謝罪を躊躇うような人格をしていない。
「俺も律羽と会えて良かったよ。おかげで毎日楽しいよ」
「わたしも律羽とは仲良くしたいなぁ」
二人がこんなに早く天空都市に溶け込めたのは律羽のおかげだ。
だから、二人とも律羽の気持ちに対して素直な気持ちを返した。
そして、連也はしばし二人と会話した後に帰ることにした。
あまり女子フロアに遅くまでいるべきではない。
そして、連也が部屋に戻った後のこと。
葵の部屋ではガールズトークが繰り広げられることとなった。
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