第48話:帰還と陰謀


だが、正面から“任務を持ってきた貴方が怪しいです”などと言っても答えてくれるわけがない。

少しばかり工夫をしなければ怪しい人物には近づけない。


飛空艇の中で連也は考えを巡らせる。


既に飛空艇は帰路についており、程なく天空都市へと帰り着くだろう。


謎の狙撃手、不自然な獣の群れ、天使型。


今回の任務には不自然な所が山ほどあり、それらを究明することで天空都市の闇に迫る直感があった。


その前に、これから連也が向かうべき先を少しばかり整理しておきたかったのだ。


本当は事前に救援を寄越せるように準備しておいてくれと頼んでおいたのだが必要なくなった。

だが、その部隊には強力な助っ人が用意されなければならない。

メンバーに琴音がいる時点で天木燐奈を動かせるだろうことは織り込み済みだった。


そこまで策を打ったのに律羽への襲撃を許した。


今度は彼女には手すら出させないという気持ちはある。


もしも次に律羽を襲撃する可能性があるとすれば、宴会の場になるはずだ。

だが、その日には連也も動ける状態ではない。


どちらに連也が赴くかは決まっていた。


結局、連也は己の目的を捨てることの出来ない男なのだ。



飛空艇は無事に港へと帰り着く。


「お前ら大変だったみたいだな。一応、救援の準備はしていたがよく帰ってきたな」


港まで迎えに来ていた景が全員に声を掛ける。

救援を必要ないと通信を入れ直したのは連也の判断なので、景の準備が遅かったわけではない。


「はい、このメンバーでなければ危なかったです。それよりも報告があります」


「ああ、それじゃ学園に戻ろう。お前らも疲れただろうが、今日の内に話だけは聞かせてくれ」


モノレールに揺られて再び学園へと帰ってくる。


全員が無事に帰って来られたのは景の言う通りに本当に良かったと思う。

そして、代表の律羽の口から色々な事実が語られた。

律羽が狙われたかもしれないことも景には伝えたし、そうする他なかった。


学園側の持っている情報で犯人が挙がるかもしれないからだ。




「こりゃ、芦原が固有兵装を使えるようにしといて正解だったな」


思わぬ怒涛の戦いの様子を聞いて、景が頭を掻いて苦笑する。


確かに連也のゲオルギウスが使えたおかげで戦場に余裕が出来たのもある。

しかし、律羽や葵はわかっていたものの、岬の縦横無尽の働きが本当に大きかった。

あれだけの火力を誇るメンバーがいたことが今回の全員が大きな怪我をせずに帰還した要因でもあった。


「わかった。理事長にも顛末は報告しておく。今日はゆっくり眠れ。それと月崎は今日は上城の部屋で眠れ。まさかとは思うが、念の為だ」


葵は自身に迫る危機への順応は早いので、そこを信頼しての指示だろう。

少なくとも今は彼女の精神状態のことも考えると一人にしない方がいい。


「芦原、お前は初めて固有兵装を起動したからな。動作確認だけしておけ。他の奴は帰っていいぞ」


景は連也だけを応接室に残して、他のメンバーだけを帰す。

理由としてはむしろ当然のことだが、本当は別の話があることは明白だった。

本当はゲオルギウスを起動したのは初めてではないので、メンテナンスは当分いらない。


部屋に二人だけになると周囲の気配を探った上で景は口を開く。


「連也の口から意見を聞きたくてな。疲れてるだろうが、それは早い段階で聞かせてくれ」


「ああ、まず最初に疑わしいのは石流教官だ。あれだけ都合よく狙撃手を配置するには事前に準備していないと無理だ」


教官が持っていた任務を律羽含むメンバーが受けることを一番最初に知り得たのは石流教官なのだ。

彼女ならば難なく敵を向かわせることも出来ただろう。


「それに映像は見せて貰ったがほぼ間違いなく天使型アークだな。もし手を組んでいるとなると相当に厄介だ」


「・・・・・・ああ、そうだな」


「お前のやろうとしていることに直接の関りはないかもしれないぞ」


「だが、間違いなく天空都市の裏側には近づける。結果的に目的に近付く手段にもなるかもしれないからな」


「それも本音だろうよ。月崎のことがお気に入りなのもわかってるつもりだがな」


見透かした目で連也を見て、にやりと笑う景。

頭脳明晰で付き合いも長い景にはほとんどのことは見破られてしまう。

律羽に対して抱えた複雑な気持ちも景の知る所だった。


「・・・・・・別にいいだろ、完全に無関係でもなさそうだしな」


「首を突っ込むのはいいが気を付けろよ。気取られたら終わりだ。宴会も近い、失敗は許されない」


「わかってる。ここまで来たんだ、絶対に邪魔させるかよ」


連也は景の釘を刺すような一言に対して真剣な表情で頷いた。

ここまで準備したのに失敗はするわけにはいかない。



―――確実に獲物は仕留める。





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