第47話:選択
律羽の在り方は好ましく思っている。
そんな彼女を見捨てられるほど、連也は非情になり切れない。
憧れた男はこんな状況なら絶対に見捨てない。
だから、愚かにも連也は告げる。
目的の為には妨げになるかもしれないことがわかっていながら。
「学園内ならまだいいが、人通りのない所では出来るだけ一人になるな」
「ええ、それはわかってるつもりよ」
自分の無力さが情けないのか悔しそうな表情を見せる律羽。
騎士長でありながら守られる側なのが許せないのかもしれない。
「だから・・・・・・俺の傍にいろ」
「えっ・・・・・・?」
「俺ならお前を守ってやれる。律羽に手は出させない」
きっとこれはこの上なく愚かな選択だ。
それでも、恩義もある律羽の未来を摘み取るのは絶対に許さない。
その為には多少の寄り道は致し方ないと決めたはずだった。
「・・・・・・そ、そうね。わかった」
しばし、呆然と連也の顔を見ていたが素直に頷く。
その顔は赤くなっていて、今更ながら自分の言葉が少しばかり照れ臭くなる。
律羽への攻撃を止めさせるには手段は一つしかない。
だからこそ採取した血液のことは言わなかった。
騎士としてではなく、正面からではない戦いは律羽よりも連也の領分なのだから。
獣は撤退したので飛空艇は動き出して引き上げる。
ちょっとした任務のはずがとんだ寄り道だ。
「芦原君、林の方から何か飛んで行った記録が残ってるね」
皆がいる部屋に戻ると琴音が早速声をかけてきた。
「映像はないか?」
「あるけど画面が粗くて・・・・・・人間っぽいんだけど羽が生えてて」
「だよねぇ、ってことは人型だけど獣災で・・・・・・こんがらがってきた」
一応、見せて貰うがそこには二つの影が映っていた。
一人はシルエットは見えないが恐らくはエアリアルを装備しているかもしれない程度で断言はできない。
ただ、もう一つ映っていたのは人間に近いシルエットをしているが、その背中には羽根らしきものが見える。
「・・・・・・
ふと、律羽が呆然と口にした単語に全員の視線が吸い寄せられる。
律羽はしまったと言いたげな顔を見せたが黙っている状況ではないと話をし出した。
ここまで来れば隠しても遅かった。
「これは本来なら外に絶対に出してはいけない情報よ。ただし、当事者のあなた達に黙っているのもおかしいわね」
「
葵が首を傾げるが秘密というだけあって琴音も知らないようだ。
「
「なんでそんなことを秘密にしてたんだろ?」
「簡単に推測できるさ。それは―――」
操縦を続ける岬が葵の疑問にあっさりと答えを出す。
それは天空都市が隠し続けて来た闇の一つでもあった。
「———人間の中にいるかもしれないからだろ、そいつらが」
敵が人間に混じって暮らしているかもしれないとわかれば動揺は広がる。
それこそ天空都市を根幹から揺るがす程に。
隣人が敵かもしれない、恐怖は例え天使型が一匹だったとしても無数に広がる。
地上に似たようなゲームがある。
人間の中に
中世で言う魔女裁判が行われる可能性だってあるのだ。
こんな事実を天空都市が公表できるはずがない。
「それは確認されている数は多いのか?」
「まだ一体だけよ。それにしてもはっきりとデータが残っているわけじゃないから眉唾って言う人がいたくらいね」
「・・・・・・そうか」
連也は何かを思い出すかのように考えていたが、納得したように頷いた。
「少なくとも学園の生徒や関係者は身元をしっかりと調べているから紛れていることはないはずよ。そこは安心して」
律羽も気付いてはいるはずだが、高い知能があるのなら身分の偽装も可能だ。
その人間に成りすました可能性も考えられるのだ。
だが、この場では学園生活を過ごせなくなることを言うのは避けたのだろう。
連也もその意志を汲み取って、この場では余計な情報を流すのは避けた。
それにしても、敵が獣災と組んでいる可能性は高くなった。
最悪の場合はこの任務でさえも仕組まれていた可能性がある。
都合よく表れた獣災の群れ、配置された数の多くない悪魔型。
おまけに狙撃手の位置までが狙いすましたかのように配置されていた。
まずは疑うべき人物は一人で、どちらにしろ話を聞きにいく必要がありそうだった。
明らかに任務を手配した人物が疑わしい。
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