第45話:敵襲-Ⅲ
「これなら岬と葵だけでも余裕だろうが、助けに行くか」
「ええ、それにしても芦原くんって本当に滅茶苦茶ね」
驚いたような呆れたような表情で律羽は言った。
連也が色々と妙なことになるのはもう慣れてしまったようだ。
「俺が勝てるって確信したから任せたんだろ?」
「そういう顔をしている芦原くんが私の予想を裏切るのは慣れたわよ」
そして、律羽と二人でまだ戦っている二人の元へ飛翔する。
もう、この戦いで苦戦するだろう局面は存在しないと断言できた。
岬の燃料も十分で体力的にもまだまだ持つ。
油断は禁物だが、戦いを終わらせてから飛空艇に戻って退くのが無難だろう。
後方にいる琴音が戦闘記録を取ってくれたはずだし、学園で調べ直せば何かわかるかもしれない。
そして、残る戦いへ身を投じようとした時だった。
―――また、連也の体に戦慄が走ったことに気が付いた。
この勘に従って後悔したことは生涯で一度もなかった。
大切な人を亡くした日も、こんな感覚が連也の中にはずっとあったのだから。
敵はもうほとんど数はいない、それならどこだ。
周囲を見渡して、律羽が目に入った瞬間にその感覚は肥大化した。
「律羽、伏せろッ!!」
エアリアルを起動、その勢いで律羽の腕を掴んで強引に下へと降下させる。
勘に従って最も回避に最適であろう行動を取る。
その瞬間、空間に一筋の紅の光が走った。
「えっ・・・・・・?」
律羽はもちろん、岬や葵や琴音にも理由はわからなかっただろう。
連也にだって何がどうしたのかは把握しきれていない。
律羽のさっきまでいた場所を閃光は通過しており、そのままでいたらさすがの律羽も無事では済まなかった。
「何なの、今のは・・・・・・」
「理由は後で説明する。それより今は飛空艇に戻れ。俺は・・・・・・行ってくる」
浮島の一つへと当たりを付けてエアリアルを起動する。
この距離で目に見えぬ相手の首をへし折れる程にゲオルギウスは万能ではない。
律羽が経験不足のメンバー数名と任務に出る。
しかも調査対象は身を隠しやすい林もある浮島。
条件は整っているので、律羽を狙っている人間が手を出す可能性は考えられた。
先程までは獣がブラインドになって狙えなかったのか、他の理由があったのか。
何にせよ、ここまで直接的に狙ってくると予測しなかったのは連也の落ち度だ。
狙われるにせよ浮島上陸後だと思っていたのだが、警戒をしていたことで何とか律羽を守れたのは幸いだった。
「逃がすかよ・・・・・・」
今回狙ってきた敵は恐らく獣災じゃない。
初日に狙撃をしてきた人間と同じ、律羽を狙う天空都市の人間だ。
なぜ彼女を狙うかを絶対にこの場で吐かせる必要があった。
浮島に上陸し、覆い茂る木々の向こう側を見透かした。
狙撃が来たのは間違いなくこの林で浮島の面積の問題もあってそこまで広くない。
茂みもそこまで丈がないので隠れるにしても限界があるだろう。
拳を握り、当たりを付けた場所の圧縮を開始する。
草木が容赦なく弾け飛んで潜んでいるだろう敵を威嚇する。
その間にも殺意に近いものを連也は肌で感じていた。
距離まではわからないが、間違いなく敵もこちらを補足している。
「・・・・・・・・・ッ!!」
刹那、連也はその場から真横に跳んだ。
その場所を貫き地面を抉ったのは紅の光で、恐らくはエアリアルの原理を利用して強化した銃の類か。
これで相手が人間であることは更に疑いなくなった。
ここまで来れば木々の間を音もなく抜ける影を一瞬だけ連也の目が捉えた。
それも一瞬だったので圧縮をかけるには敵の位置を明確に把握できていない。
連也は木々を縫って駆ける。
正体不明の狙撃手も視界に捕捉されないように逃げ回り反撃を行ってくる。
気を抜けば追撃を断念せざるを得ない魔弾を避け続けるのは連也の立てる予測だ。
ここでなら撃てば当たるだろう、そんな予測と勘と反射神経。
これらが組み合わさった連也の回避のレベルは恐らく蒼風学園でも他に並ぶ者はいないだろう。
命を賭けた追撃はしばしの間は続き、互いに相手の実力が生半可なものでは
ないことは察しているはずだった。
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